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第53話 すべきこと

 手を洗ってから、リビングに戻って、テーブルに近づくと。 「わ、ハンバーグだ」  ……はっ。めっちゃ喜んでしまった。  ぷ、と颯に笑われる。でも、笑われても、嬉しい。 「オレの好きなもの何で分かるの?」  すげーな! 運命だから?  なんて思った瞬間、苦笑いの颯が、座りな、と笑った。 「帰り道で後藤に会って、お前の好きな食べ物聞いたら、ハンバーグは好きだったって言うから」 「あ、後藤に聞いたのか。そっか」  そうだよね、友達情報か。まあ、運命だからって、ハンバーグは分かんないか。うん。  めっちゃテンション上がって、あほなこと考えてしまった。 「そこまで喜ぶとは思わなかった」  クスクス笑いながら颯が向かい側に座って、そんな風に言う。 「食べよ」 「うん。いただきまーす」  なんかお皿とかもオシャレだなぁ。 「なんかすごく美味しそうで食べるのもったいないけど」 「食べろって」  クックッと笑いながら、颯が言う。うん、と頷いて、いよいよ口に頬張ると。 「おいしー」 「好きな味?」 「うん、大好き」 「それは良かった」  クスクス笑って颯も食べ始める。 「颯、料理、出来るの何で?」 「好きだから、かな?」 「……ほー」  かっけーな。  なんなの、この人。ほんと。  …………旦那様、かー。  ひーえー、旦那様とかって。また恥ずかしくなりそう。  ぐびぐび冷たい水を飲んで冷やそうと試みる。 「何? やけど? ……するほど熱くねえよな?」  颯に変な心配をさせてしまった。 「うん、やけどはしてない……」  言いながら、次のハンバーグを口に入れる。 「ほんと、美味し」 「ん。良かった」 「……あのさ、颯?」 「ん?」 「オレ、あんまできないよ、料理」 「別にいいよ。オレが好きだし」 「……一応オレ、奥さん……みたいな??」 「――――……」 「オレが作れた方がいい……よね??」  颯は、ふ、と微笑んだ。 「奥さん、とか思ってンの?」 「……だって今日、颯を旦那さま、とか言われた」  ちょっと恥ずかしくなりながらもそう言うと、颯は、ふうん? と少し眉を上げた。 「まあ……αが旦那で、Ωが奥さん、ね。まあ間違っちゃいないけど」  クスクス笑って、颯が少し首を傾げながら、オレを見つめる。 「慧はさ」 「……」 「つい最近までαだったろ」 「ん」 「戸惑うこととかもあるだろうし、無理しなくていいよ」 「……いいの?」 「世間がどうとか、普通はこうとかも、当てはまんないって思ってていいよ。変性自体があんまりないんだし。つか、運命の番だってことが、そもそも、すごいことなんだし」 「――――……」 「オレらまだ二十んなったばかりで、親に助けられて結婚生活してるだろ」 「……うん」 「オレが養ってる、とかでもないし。二人で、頑張ってこーぜ。どっちが何すべき、とかは無し」 「――――……」 「料理は教える。手伝ってくれたらいいよ」 「……うん。分かった」    なんだかとってもすっきり晴れやか気分。  ……良く分かんないけどオレ。  とにかく、颯が大好きみたいだ。

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