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第55話 ふたりでしか
「少し待ってて」
そう言われて、ん、と頷く。
隣に座って、ものすごく近いもんだから、膝がぶつかるというか。なんか緊張するし。
颯はスマホを見てるし、待ってと言われてるから、なんかちょっと話しかけにくいし。
どうしようかな。
でもちょっとだけ聞いてもいいかな。
「……颯? 聞いてもいい?」
「ん? 何?」
「スマホ、何してんの?」
「んー……株価見てる」
「か……株価??」
予想外の回答に、ほえーと変な声が漏れる。
何だよ、もうカッコつけて、株価って、もう! と、前なら言ってただろうと思うのだけど。ちょっとスマホを覗いてみる。ふむ。……全然分からない。首を傾げたオレに気づいたのか、ん? と颯がオレを覗き込んで、ちょっと笑った。
「じいちゃんに、世の中知るのに株はいいとか言われて、結構昔から無理矢理やらされてたんだよな。ガキの頃はオレが売り買い決めて手続きはしてもらってたけど。損した時とかは、すげー長い講義が開かれてさ。マジ最悪だったけど」
「へー……」
「まあおかげで、結構今は良い感じ」
「へー……」
「あと少しで終わるから」
「うん」
今度こそちゃんと黙って待ってるけど。スマホを見てる颯をなんとなく見つめる。
えーと。すごいというのか、なんなのか。
とにかく、スマホゲームとか、元カノと連絡とかいって、すみませんでした。
という気分でいると。少しして、颯が顔を上げてオレを見た。
「ん、終わり」
「もういいの?」
「ん」
スマホをオレと反対側に置いて、颯がオレを見つめる。
「……慧」
「ん?」
「こういう時、お前、何すんの?」
「え?」
「ちょっと休憩、とかそういう時。何してた?」
「――――……」
同じこと、考えてる。
思うと、また胸がトク、と速くなる。嬉しいと心臓というか胸というか、とにかくそこらへんって、きゅうとなって、速く動くんだなーと。なんだか不思議な実感。
「テレビ見たり……スマホ触ってたり……?」
「ふうん……本読んだりする?」
「うん」
「何読むの?……ていうのは、また今度聞くか」
「?」
ふ、と笑う颯が、オレの頬に触れた。
「二人でしかできないこと、する?」
「……? 何?」
ふと見上げると、颯はまた微笑んで、その綺麗な唇を、オレの唇に重ねさせてきた。
「――――……」
もうなんか。どくどくする。心臓。
「慧」
引き寄せられて、腕の中から颯を見上げる。
「顔、赤い……」
くす、と笑われて。
でも、何か言い返す前に、キスされる。すこし。深く。
二人でしかできない、時間の潰し方。
……っっっっ颯って。気障っていうか! なんかカッコよすぎて、しれっとされると、ついていけないだけど、オレ!!
ゆっくりなキスが離れて、ふ、と瞳を開けると、至近距離で視線が絡む。
「そういえばさ……なーんか、お前の周りって、今更だけど、α多いな?」
じっと見つめられて、からかうみたいな口調の言葉を、ん?なんて? と自分の中で、繰り返す。
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