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第80話 初デート 1

 シャワーを浴びて身支度を整えて、待っててくれた颯に近づくと、颯が笑う。 「さっきと大分違うな」 「さっき寝起き……」  むー、と膨れると、またぶに、と頬を潰される。  ……これがしたくて、何か言ってきてるのかな。とチラッと思いつつ、首を軽く振って手から逃れると、笑う颯に頭を撫でられる。 「行こ。駅前に美味そうなとこ見つけた」  持ってたスマホをしまいながら、颯が言う。 「慧、甘いのと、甘くないのどっちがいい?」 「颯は?」 「どっちでもいいから聞いてる」 「んー……甘いの」 「OK」  ふ、と笑う颯を見つめながら、マンションの廊下を歩いて、エレベーターに乗り込む。  一階を押した後。 「慧」  頬にそっと触れられる。 「デートは初、だよな」 「うん。用事は、色々あったけどね」  書類出しに行ったり、挨拶に行ったり、引っ越し準備とか、なんか色々、二人でどこかには行ったのだけど。  なんか、デートっていうような、甘い雰囲気ではなかったような。 「今日は、オレに任せて?」 「――――……」  返事が出来ない。  ……息、止まるから。  なんでそんな、キラキラな感じでオレを見つめるのかな、もう。  任せるってば。全部何もかも、颯に任せる。  っていうか、もう、ずっと任せる。  ってか、すごく好き。  ヤバい。  何なんだこれ、もう。  ほんと、返事が出来ないどころか、息が止まる。  こくこく、と頷くと。  ん、と笑う颯が、なんか。めちゃくちゃ優しい顔をしてるので。  ……もうオレ、今の時点で十分幸せなんだけど。  ――――……今からデートか。  死んじゃうかもしれないな。  ……んん。何で? 呼吸困難か? キュン病で、心臓動きすぎかな?  ……とか、あほだなオレ、と思いながらも、ちょっぴり、本気で息が止まるの困るな、とか思っていた。  エレベーターを降りて、マンションを出たところで、「ん」と手を出される。  キュン。  不思議なんだけど。  ……ほんとに胸の奥がそう鳴るんだよね。どこが鳴ってんのかな?  なんか、鼓動が、とくん、て跳ねる時もある。  ……乙女か。オレ。 「ん」  手を差し出すと、クスッと笑う颯に、手を掴まれて、一緒に歩き出す。  手。繋いでくれるんだよなぁ。颯。  もちろん荷物持ってる時は無理には繋がないけど、手が空いてると。  こうして、手を出してくれる。    ――――……オレ。  実は。  人と手を繋いで歩くのって、颯が初めて。  試しにデートしてる子たちと、手は繋がなかったし。  付き合ったことないんだから当たり前、ではあるんだけど。  うーん。  ……思えば、手を繋ぐのも、キスするのも。頭を撫でられたりするのも。  全部颯が初めて。……なんか。  颯が初めてで。このままずっと颯と一緒で、颯が最後、がいいなぁ。  繋いだ手に、ホクホクしながら、そんなことが頭の中を占めてる。 「慧、手、繋ぐの嫌じゃない?」 「え?」 「手、繋ぎたくない奴もいるかなと思って。一応確認」  聞いてくれるのは、優しいとは思うんだけど。  ――――……え。全然。嫌じゃない。ていうか、嬉しい。めちゃくちゃ。嫌な訳ないし。  ていうか、離しちゃやだし。  じっと見つめながら、何て言おうかなと思っていたら。 「分かった」  クスクス笑いながら、オレの手を引いて、もっと近くに引き寄せる。 「ほんと可愛いな」  すごい至近距離で囁かれて、見上げると。  ……なんか颯も、嬉しそうなので。  ――――……もうキュン病がデフォルトになりそうな気すらしてくる。   

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