82 / 214

第82話 初デート 3

 しばらくしてやっと顔の熱が引いてから、ちゃんと顔を上げると。  ……颯はふ、と微笑んでる。  優しい視線は、嬉しいけど。ときめきすぎるオレにはちょっと。加減してほしい。 「何であんな真っ赤になったンだ?」 「……わかんない。なんか。颯が、初めてとか言うから?」  そう言うと、颯は、クスクス笑う。 「んー。でもほんと初めてでさ。……慧、オレのことどう思ってるか知らないけど」 「何のこと??」 「慧はオレのことモテるとか言うけど。告られて付き合っても、振られることもあったし。興味持てなくて別れるっつったら、すげーキレられるし。色々あったからな?」 「えっ、颯、振られるとかあるの?」  驚いて聞き返すと、颯は苦笑い。 「あるよ。普通に」 「何で??? 全然分かんない。颯を振るとか、居るの、そんな女の子」 「――――……」  じっと見つめられる。 「……居ないと思うの?」 「え。居るの? ほんとに」 「何で居ないと思うの?」 「え、だって……居ないかなって、ただ思うんだけど」  何でって何だ? へんな質問。  思わず首を傾げながら、颯を見つめ返していると。颯は、クスクス笑いながら。 「それは、慧が、オレと別れたいって、考えもしないってこと?」 「? うん」  普通に頷いたら。颯は何だかため息をついて、自分の前髪を掻き上げた。形の良い額と眉と、瞳。カッコイイなあ、颯。と思わず見つめていると。くいくい、と手招きされた。 「ん?」 「いますぐどっか連れ込みたい」 「え」 「て思うくらい、可愛いから」  こそこそと耳元で囁かれて。それから颯はまた離れて、「ほんと慧って困るな?」なんて言って、笑う。  やっと引いたのに、また顔が熱い。  つか。  赤面って、どーしたら止められるんだろ。マジで。  かぁっと赤くなっちゃうのも。  連れ込みたい、なんて言われて、連れ込まれた後のこととか、一瞬考えそうになると、またふわふわ、やばいフェロモン飛びそうになるし。  落ち着け―。オレ。考えるなー。 「……つか、今オレ何かした? 普通に話してただけじゃん……」 「オレが振られるなんて分かんないって思うくらい、オレとは別れたくないって思ってくれてるってことだろ?」 「――――……」  …………。  ……確かに、言われてみればそういうことかも。うう。恥ずかしいなオレ。好きってまだ言えてないくせに、気付くと、色々言っちゃってるような気がしなくもないような……。まず先に好きっていうべきでは……。  いまこの勢いで……って勢いってなんだって、我ながら良く分かんないけど。  えっと、好きって。  ………… 好きって。なんて言えば?  えっと……。 『だって、颯のこと好きだから、別れたいなんて思わないし』  ……言うならこういうの……だと思うんだけど。 『好きだから』  えーと…… 「……す……」  一文字で止まった。颯は、ん?と微笑む。  あ。今は無理そう。照れて死ぬ。  あとにしよう……。  今日はデートだから、言う機会、いっぱいあるかもしれないし。うんうん。  と、一旦、逃げることに決めた。

ともだちにシェアしよう!