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第84話 初デート 5

「あ、そういえば。言ってなかった」 「ん?」  颯がオレを見つめて、言い忘れてた、と苦笑い。 「ゼミ合宿があるんだよなオレ。再来週の週末」 「あ、そうなんだ?」 「金曜が祝日で、二泊三日」 「そうなんだ……そっか」  颯、居ないのか。  ……じゃあ、あの部屋に一人かぁ……。 「寂しい?」  ちょっとしょんぼりしたのがバレたみたい。  ……成人の男なのにオレ。ちよっと情けないかなと、ふと思う。 「いや、あの。初の一人だから……」  少し情けないかなと思って、言い訳をぼそぼそしていると、颯が頷いてくれる。 「だよな。まだあの家にも慣れてないもんな」 「でも、再来週ならちょっとは慣れてるかも」  考えながらそう言うと、颯はすこし心配そうにオレを見つめる。 「とりあえず、ヒートだけは重ならないといいけど」 「うん。まあ……まだオレのヒート、定期的とか、そういうの分かんないから」 「重なったら休もうかな……」  そう言ってくれた颯に、「ぇ、いいよ」と首を振る。 「だって、ゼミ合宿なんて年に一回とかでしょ?」 「そうだけど。慧の方が大事だし」  そんなさりげない一言に、ぐらぐら心を掴まれながら。 「きっと大丈夫。ヒートになっても、耐える! だから颯は行って良いぞ?」  そう言ったら、颯は、ぷ、と笑う。 「耐えるって……」  クスクス笑ってから、ありがと、と颯が囁く。  その時、はっと、思いついた。  颯が不在。二泊三日で。  ……昨日のオメガ会議でいっぱい聞いてきた巣作りってやつを。できるのでは。  颯が居たらできないことだもんね。  ヒートでもヒートじゃなくても、一回やってみよう。颯の匂いのものに包まれるって。幸せそう。  ふふーん、とご機嫌になっていると。 「何でそんな、急に楽しそう?」  と颯に聞かれたけど。ぶんぶん首を振って、なんでもない、と答えた。  颯は可笑しそうに笑うけど、それ以上は聞かれなかった。 「慧はないのか? ゼミ合宿」 「オレは冬にあるって。……でもそれこそ、ヒートと重ならないといいな」  何気なく言った言葉に、颯が、ぴく、とオレをまっすぐ見つめた。 「――――……オレ、ついてこうか?」 「えっ。ゼミ合宿に?」  びっくりして聞き返すと、颯は、さすがに変か、と呟いた後。 「んー……偶然旅行で来てます、ならありかな」 「そんな馬鹿な……」  冗談かと思って、あはは、と笑うと。 「でも別に、同じとこに泊まっちゃいけないって決まりがある訳じゃないし……」  とかぶつぶつ言ってる。  あれ、まさか少し、本気?? 「颯って、実は過保護……?」  じっと見つめて、意外ー、と瞬きしていると。 「……番が可愛すぎると、過保護になるみたいだな」 「――――……」  ぐ、と息が出来なくなって、また顔が熱くなる。  もー無理。  可愛すぎるとか、キラキラで普通に言わないでくれ。  ついていけないよー。  これ、もとから可愛いって言われて慣れてる奴は、どうやって返事するんだろ。  今度聞いてみよう、と心に誓いながら、もうひたすら眉を顰めて、ストローでコーヒーを流し込む。 (2023/11/20)

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