85 / 214
第85話 初デート 6
デートは、すごくすごく、楽しかった。手を繋いで歩くのにも少し慣れた。
近くで見下ろされる感覚には慣れなくて、至近距離で見つめられると、すぐドキドキするけど。
一緒に使おうって、マグカップやランチプレートを選んで買ったり、洋服を選びあったり。お昼に入ったレストランも、いい雰囲気で、美味しかった。オレが寄りたいって言って急遽入ったゲーセンでも、車のレースで盛り上がったりして、めちゃくちゃ楽しかった。
颯とオレが、こんな風にデートする日が来るとか。すごいことな気がする。
皆に見せたい。今のオレ達見たら、ちゃんと仲良しって納得してくれると思うのになぁ、なんて思ったりした。ちょうど誰かに会ったりしないかなと思いながら、でも今日は誰にも邪魔されずに二人きりを満喫したいと思ったりもした。
……まあオレ、恋愛系はほぼ全部初めてなんだけど。
当然、好きな人とデートするのも、初めて。だからこんなにずっとドキドキしてるデートも初めてで。
誰も見てなければ、めちゃくちゃ楽しいぞーって叫びたいくらい、楽しい。
次はどこに連れて行ってくれるんだろうとわくわくしながら、土曜の人通りの多い街を、颯と手を繋いで歩いていると。
「あ。ごめん、慧」
「ん?」
「ここのベンチで、少しだけ待ってて?」
「うん。わかった」
「すぐ来るから」
「うん」
颯が早歩きで立ち去っていくのを見送る。姿が見えなくなって、なんだろ、と思いながら息をついて、ベンチに腰掛け、少し先の景色に目を向ける。
あ。観覧車だ。
もう日が落ちて、キラキラ光ってる観覧車がとても綺麗。
いーなー。颯と乗りたいかも。
……でも混んでそうだよな。土曜の夕暮れ時。一番、デートで使われそうだし。
ぼー、と見つめていると、足音が不意に聞こえて、「お待たせ」と颯がすぐそばに来ていた。
「あ、颯。おかえり」
そう言いながら見上げると、ふ、とキレイに笑う颯は、本当に、カッコいいなとしみじみ思ってしまう。
この人が、運命の番で、オレの旦那様かぁ。
中学からずーっと、負けたくないって、追いかけてきたんだよな。
……こんな風になって。
負けたくないって気持ちはもう全然無いんだけど。
本当は、もうちょっと。素直に好きって言ったり。甘えたり。したいんだけど。
うーん、でもオレ、張り合ってたっていうのもあるけど、もとαの男なんだよね。長くそれで生きてきた、諸々を、急に可愛く変えることなんかできないよー。
……颯はなんでか、可愛いって言ってくれるけど。
ほんとに「可愛い」って感じじゃないよなー、オレ。
色んなことを考えながら、手を繋いでくれた颯任せに道を進んでいく。
「どこ行くの?」
「すぐわかるよ」
「ん」
この方向って、もしかして……??
さっきずっと見上げてた、大観覧車が、近づいてくる。
「――――思ってたよりは空いてるけど……慧、並んでいい?」
「観覧車? え、いいの? さっき見てて、乗りたいって思ってた」
そう言うと、颯は、良かった、と笑って、オレと一緒に列に並んでくれた。
「オレ、観覧車、すっごい好き」
「知ってる」
「あれ。何で?」
「こないだ言ってたし」
「え、いつ言ったっけ?」
「電車に乗った時、つり広告見ながら、すっごく綺麗だな、いいなーって」
「あ。そう言えば……」
電車で、見た広告を、ただぼそっと言っただけなのに。
「覚えててくれたの?」
「デートで行こうと思ったし」
クスクス笑う颯に、ちょっと感動。
優しいなぁ、颯。
大好きすぎる。
ともだちにシェアしよう!