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第86話 初デート 7

「颯、さっきどこに行ってたの?」 「ん、ちょっとな。後で話す」 「? ん、分かった」  頷いてから、間近になった観覧車を見上げる。 「すごく近いけどさ、ぐるぐるくねって列になってるから、結構かかりそうだね」 「まあ……でも、思ってたよりは空いてた。調べてた時は、二時間待ちとかの日もあるって書いてあったから。三十分ちょいで乗れるならいいかも」 「うん。三十分なんか、颯としゃべってたらすぐだし」  オレがぼそっと言ってたとこに連れてきてくれようとして、調べてくれてたことがすごく嬉しい。二時間でも全然待つ。 「ありがとうね、颯。今日ほんと、楽しい」  そう言うと、颯はクスッと笑って、オレの頭を撫でた。 「まだデート、全然終わってないけどな」 「えっまだあるの?」 「あるよ。楽しみにしてな」 「ん」  嬉しくなって頷いてると、並んでる周りの視線にふと気付く。  ……んー、なんか、めっちゃくちゃ見られている。  颯に行く視線と。オレに来る視線もある。  どういう視線なんだろ。  あ、カッコいい! 一緒に居る人も男だー、どれどれ? なのか。  二人ともカッコいい、なのか? 一応オレも、歩いてても割と視線を向けられることは多かったから、そこそこ目立つのは、知ってるけど。  颯と並んでたら、絶対背の高い颯の方を先に見るよな~。まあ別にそれは全然良いんだけど。  ていうか。  颯とオレ。なんだと思われてるんだろう。  今は手を繋いでなくて、普通に立って並んで、普通に話していると。  やっぱり、友達同士なのかなぁ。  オレ、αだった時は、初対面の人もαだって目で見てきたし。だからαぽい見た目……なのって、こんな短期間に変わんないよね。むむむむ。  肌がつやつやになるとか言って、それが本当だとしても、別にそれによってΩだなんて見えないだろうしー。ていうか、肌つやつやって何。オレ、元から結構つやつやだったし。じゃああんまり変わんないんじゃん。むー。  まあ別に、知らない人がオレ達を、友達だって思ったからって、別にオレになんの被害もないんだけど。  ……少しだけ、考えちゃうのは。  オレがもうちょっと小さくて見た目から可愛くて、ΩっぽいΩで、颯とお似合いな感じだったら。  お似合いだなーって目で、見てくれたかなあ……。  ……別に。  見てほしい訳じゃないけど。  ……んー。。。 「慧? 次だよ」 「あ、うん」  颯が優しい感じでオレに話しかけて、ふ、と微笑むと。   隣の女子グループが、きゃーとか小さく騒いでるのが分かる。  うん。まあ。分かるよー、ほんとカッコいいよね、この人。  トップレベルでカッコいいよねー。うん。  なんなら初めて見た、くらいでカッコいいよね。  分かる分かる……。  ……別に。友達って見られても、いいんだけど。  いいんだけど、なんだろ。うーん。と考えていると、前の人が乗り込んで、次オレ達の番。  観覧車が来て、「動いているので気をつけてくださーい」と係りの人が言う。颯がひょいと先に乗って振り返る。 「ほら」 「え。……あ」  差し出された手に、自然とつかまると、ぐい、と引き寄せられて。 「隣でいい?」  引き寄せられたまま、隣にすとん、と座る。 「失礼しまーす」と、係りの人が言いながら、観覧車のドアを閉める、その外側に、さっきこっちを見てた女子たちが、めちゃくちゃきゃーきゃー騒いでるのが見えた。  …………なんか。  ……きっと、カップルって、見えたかな。オレ達。  引き寄せられて、至近距離に座ったまま、隣の颯を見上げる。 「デートって、感じしないか? 隣に座るの」 「……うん。する」  オレが、めちゃくちゃ笑顔になっちゃった気がするのは。  しょうがないと思うんだよね。  だってなんか。  嬉しいんだもんな。  

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