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第87話 初デート 8

 手を繋がれたまま、颯の超近くに座った観覧車の中は妙に静か。  金属の少し軋む音がして、風がそよそよと軽く吹き抜けてく。気持ちイイ。  少し揺れながら、徐々に地上から離れていく。  二人きりの、空間。なんだか緊張する。手に汗かきそうでちょっと嫌だな。  ドキドキしすぎ。オレ。  颯と反対側の窓から少し下を見ると、街の明かりがキラキラと光っていて、とても綺麗。   「……慧?」 「ん?」  振り返って、颯と見つめ合う。 「楽しい?」 「うん」  ふふ、と笑顔で頷くと、クスッと笑われる。 「けど、こっち向いてて」 「あ、うん」  ……わざと、颯と逆の方見てたんだよ。緊張するから。ちょっと、ドキドキしすぎてヤバいから。……とは言えず、頷いて。颯の方を向いたまま、窓に視線を向ける。 「もう、下、すごく小さいね」  まだ頂上まではしばらくあるのに、もうすでに、人もビルも小さくて、空に浮かんでるみたいな感覚。 「観覧車の頂上でキスすると、ずっと一緒に居られるって、知ってるか?」 「ううん、知らない。そうなの?」 「ジンクス。どこにでもあるやつ」  くす、と笑う颯。 「そうなんだ。…………する??」  したいから言ってくれてるのかなと思って、聞いてみると、颯はオレを見つめ返して、ふ、と微笑んだ。 「それもいいんだけど……」 「?」  キスされるのかなと思ったら、繋いでいた手を解かれた。  あれ? 離しちゃうんだ。  そう思っていると。颯が横に置いていた紙袋の中から、小さな箱を取り出して、オレの前で、開いた。 「え」  そこには、指輪が二つ並んでいた。  びっくりして、ただ、見つめてしまう。  なめらかな、細身の指輪。外側は銀で、内側は金色。  めちゃくちゃ、綺麗。 「……颯……?」  指輪から視線をあげて颯を見つめる。  少し照れ臭そうに、にこ、と笑う颯。 「裏に石と刻印を入れて貰ったら、時間がかかって遅くなったけど」 「――――」 「つけていい?」  そう聞かれて、ん、と頷く。それ以外なにも出てこない。  手を取られて、優しく、スライドさせるみたいに指輪をはめてくれる。  何かの儀式みたいに。  すごく。特別な、感じで。  左手薬指にぴったりはまった指輪を、ただ、じっと、見つめていると。 「オレにもつけて」  そう言われて箱を差し出されたので、そっと大事に指輪を手に取って、颯の左手に触れた。ゆっくりゆっくり、薬指に指輪をはめていく。  颯の薬指に指輪がはまったところで、ちょうど、観覧車が真上に近づいた。  頬に颯の手が触れる。  この状況と、見つめられてるだけで、泣きそうなのに。 「番になろうとは言ったけど……まだこれ言ってなかった」 「――――……」 「オレと、結婚してくれて、ありがと、慧」  ちゅ、とキスされて。ゆっくり離されて瞳があった瞬間。   「…………っ」  ぼろぼろ、涙が零れて来て。颯にめちゃくちゃびっくりされてしまった。 「……っごめ、ん……」  右手の甲で、涙をぐしぐし拭いてから。 「ありがとは、オレのセリフだから……」  αからΩになっても、オレが今も、こんな風に楽しく居られてるのは。  全部颯のおかげだ。  颯の笑う気配がして、オレは、ぎゅ、と抱き寄せられた。 「……慧」 「……ん?」  完全涙声で聞き返すと。 「――――もうオレ、お前のことがほんとに可愛くてしょうがない」  そんな風に囁かれて、よしよし、と撫でられると。  また涙が浮かんできて。  ぎゅ、と目を閉じる。 「も……」 「ん?」 「これいじょ…… 泣かすなよ……っ」  文句を言うと、颯はクスクス笑いながら、オレの頬にキスしてから。  ハンカチとティッシュを渡してくれた。

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