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第88話 初デート 9
オレがΩになって、絶対変わったこと。
涙もろくなった。
Ωになったせいなのか、颯と居るからなのか、恋とかしちゃったせい、なのか。
……全部かな。
Ωになるまでの数年間。小学生くらいから、そんな泣いた記憶なんか無い。
おかしい。
指輪とか、ちらっと思ったことはあったけど。でも、卒業後かなって思ってた。
式とか結婚とかの儀式っぽいのはするとしても卒業してからだし、なんとなくオレ達は、番になってしまったから、まず結婚状態を作ったというのか。婚約とかもないし、付き合ってすらなかったし。ていうか会話すらしてなかったオレ達が突然、変性きっかけで結婚して、一緒に暮らすことになっただけで。普通の結婚とは違うかなって気もしていたから。
色んなそういうのは、卒業して自分たちで生活できるようになってもちゃんと居られたらかなって、なんとなく思っていたから、颯と話したことも無かった。
準備、してくれるなんて思っても無かったから、ほんとにびっくりして。
やっと涙が止まって、オレは颯の腕の中で、指輪を見つめた。
「……すごく、綺麗。ありがと、颯」
「ん」
「……あ、 石って? 刻印て?」
「見てみな?」
言われて、そっと指輪を外して、裏側を覗き込んだ。
「青い石、綺麗」
「ブルーダイヤモンド。永遠とか幸せとかの意味だって」
「――――……そうなんだ」
感動……。
ジーンとしながら彫ってある字を見ると。「HAYATE&KEI」と、綺麗な細字のローマ字で彫ってあった。
じっと見つめていると、その指輪がすごく尊いものに思えてくる。
颯はオレと、永遠に幸せに、と思ってくれたのかなと思ったら。
……すっごく、嬉しい。指輪をはめようとしたら、颯が優しく手に取って、もう一度、はめ直してくれた。
「指輪はめるのって……なんか、すごくいいかも」
颯がなんだか嬉しそうに言うけど。
もうこっちは、いいかもどころじゃない。
ドキドキしてキュンキュンして、そろそろ倒れる気がするくらいで。
……うん。
たった一つの、小さな指輪だけれど。
なんだか薬指が重い、ような気がする。
嬉しい重み。
「さっき、それ取りに行ったんだよ」
「あ、そうなんだ」
「なんか、デートの途中で居なくなって、オレが理由も言わなくても、けろっとしてる慧が可愛くてさ」
「――――……え」
そうなの?? 不思議で見上げると。
「……なんだろうな、なんか、そういう小さい一つずつが、可愛いって思うことが多くて」
頬に颯の手が触れて、至近距離でじっと見つめられる。
「そういう相性みたいなのが、いいと思ってるんだけど」
「――――……」
「お前は? そう思ってる?」
「…………」
こくこくこくこく。
うまく言葉で言うなんてことは出来ない。ていうか、色々好きなとこ浮かびすぎるけど、それを全部、目の前のこの人に並べ語るなんて、今のオレにできる訳もなく。
なのでこくこく頷いていると。
颯の手が、オレの後頭部を押さえた。
「頷きすぎ。首とれそう」
苦笑されて、「とれないよ」と笑うと、「分かってるけど」とまた笑われる。
「颯……?」
「ん?」
「ほんとに、ありがと」
至近距離にいる颯を見つめて、そう言ったら、颯は、ん、と笑ってくれて。
ちゅ、とキスしてくれた。
触れては離れて、また重なるキス。
舌は触れない優しいキスなのに、きゅと、体の奥が反応する。
やばいもう。
毎日、好きの上限をクリアしてくというか、良く分かんない。
好きの終わりってないのかな。
キュン病の症状も、どんどんひどくなっていく気がする。
やばすぎる。
思いながら。
観覧車後半、全然景色見なかった。颯と指輪しか見てなかった。
……けどいっか。幸せだから。
キスされながら、ふ、と笑ってしまったら、颯もなんだかクスッと笑って、また唇が重なってきた。
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