93 / 165

第93話 仲間との飲み会 3

「なあ、それさ。いっこ、気になってんだけど、オレ」  昴がちょっと不満そうな顔で、颯を見つめた。 「慧と番う前に付き合ってた女、居るだろ」 「……番う前には別れてたけど、最後の元カノのことか?」 「そう。藤嶋美樹だっけ」 「美樹が、何?」 「まだあきらめてないって噂だけど」  あ。そういえば、Ωの三人と飲みに行った時言ってたな。  昴も知ってるんだ。……ていうか、有名なの?? 「諦めてないもなにも、番になって結婚までしてるし、オレ」  颯がそう言うと、「別にαは複数のΩといけるだろ」と昴。  颯は、ふー、と息をついて、オレを見る。 「オレ、もう慧以外、いかない」  めちゃくちゃはっきり言ってくれて、オレを見つめる颯に、内心とっても嬉しい。 「オレが番うのは慧だけだって、約束してるし。な?」 「ん」  ……内心どころか、めちゃくちゃニコニコしてしまう、オレの顔。 「はいはい、そこ、緩んでる場合じゃないでしょ」  誠が可笑しそうに笑いながら、オレに突っ込んでくる。  ……べ、べつに、そこまで緩んでないし! ちょっとニコニコしちゃってた自覚はあるけど……。と心の中で言い訳してるオレをそっちのけで、健人が、んー、と考えながら。 「でも美樹、気は強いけど、変なことするような奴じゃないと思うけど」  健人がそう言うので気を取り直して、あれ、健人も知ってる人なの?と聞くと。 「高校一緒だったけど。知らない?」 「え。そうなの?? ……知らないかも」 「そっか。まあ関わんない奴、ほんと関わんないもんな。でも颯の側にずっと居たと思うけどね、付き合う前も。慧、見たことないのかな?」 「……大学で腕組んでる時に見たことはあるけど。高校ん時は、覚えてないや……」 「オレも知らない」  オレがうーんと考えてると、昴も続けてそう言った。そっか、と健人は頷いて。   「美樹は颯のことがずっと好きだったの、有名だったからな。だからそんな噂が出ちまってんのかも」  健人の言葉に、ああ、なるほど……とオレが頷く。 「……オレが、別れる時に泣かれたのは、美樹だけかも」 「え、そうなの?」  颯の言葉に、びっくりで聞き返したオレを、皆が見つめてくる。 「なんでそんなそこに驚いてんの?」 「え、だって。……皆、泣くんじゃないのかなって……」  誠の言葉に、びっくりの理由を言ったら、颯は、苦笑で。  三人は、はー、と息をついてから、顔を見合わせて、ははっ、と笑いだす。 「何だよー???」  む、と聞くと。   「慧、もし颯と別れるってなったら、大泣きするってよ」 「別れないであげてね?」 「番になっといて別れたら、慧が泣く前にぶん殴るけど」  健人と誠と昴が笑いながらそんなことを言う。  昴はちょっと過激だけど。いやいや、それじゃなくて。 「オレ、泣くなんて言ってないじゃん!」    反論したけど。 「颯と別れて泣かない子がいるのが不思議なんだろ?」 「美樹だけだって聞いて、びっくりしたんだよな~?」 「結果的に、別れたら泣くって言ってることだって気づかないのがすごい」  昴と健人と誠に続けて言われて、ぐ、と黙ると。 「大丈夫、オレ、お前泣かせないから」  クスクス笑いながら、颯がオレの背中をポンポンしてくれる。  照れまくって、「ん」と頷いてると、三人が呆れたように、でもなんか、面白そうに笑う。  ちょっとお前らもう、今、何も言うなー。  と、心の中で言って、むむ、と眉を顰めると、余計笑い出す。

ともだちにシェアしよう!