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第126話 大物??

「慧はオレにとって、全くそういう対象じゃないからな……まじで誠がわけわかんねーこと言った時、蹴り飛ばそうかと思った」  それを聞いて、あはは、と笑ったオレに。 「って思うオレでも、さっきの、二限に来たお前には、色気振りまくなっていうくらいだったってこと、ちゃんと自覚しろ。つかお前に色気感じる日がくるとは思わなかった」 「……なんか、すみません、ほんと」  恥ずかしくなって、ちょっと俯く。 「ほんとだよ」  と、昴に言われて、ちらっと昴を見ると、ほんとしょうがねーなという顔。 「昴っていっつもそんな顔でオレの隣にいる気がする」 「そんな顔って?」 「しょうがねーなー、て顔?」 「ああ。大体あってるな。しょーがねーなあって、よく思う」  クックッと笑いながら、昴がそう言う。 「でも昴のしょーがねーなあは、なんか優しくて好きだから、いいや」  なんだか可笑しくなって、ふふ、と笑いながらそう言ったら。  昴は、ちょっと黙ってオレを見て。 「そういうのがな、お前は、たまにやめとけよって思うんだけど」 「……ん?」 「誤解を与えるというか……」  はーやれやれ、といった感じでため息をついて、それからオレを見るけど、でもそれは別にいいじゃん、と思って。 「でも、好きくらい、友達には言うでしょ」 「……言うか? まあ百歩譲って言うにしても、ほんとに仲のいい友達だけにしとけ。……颯に誤解されたくないだろ?」 「あ。うん。そっか。……分かった」  頷くと、昴はふとオレを見つめてから。 「それが今は一番効くのか、今度からそれで言お」  クスクス笑う昴。  そうこう言ってる間に、十号館について階段を上り始める。 「どこに居るんだ?」 「多分昨日の階段のとこかな、この上の」  言いながら上ると、階段から少しだけ離れた所で立って待ってるイケメン発見。オレたちに気づいて、持ってたスマホから顔をあげた。 「あ、先輩。こんにち――……っと」  オレに話しかけながら近寄ってきた匠は、一瞬、退いた感じ。 「うわ……予想以上」  苦笑いでそう言ってから、改めて「こんにちは、先輩」とオレに笑いかける匠。もう何か、色々言いたいことがあって、ちょっと咄嗟に言葉が出てこない。 「んー。なるほど……」  匠はそう言ったまま、少し黙ってる。何か言いそうなので、じっと見つめてると。 「先輩、気付いてますよね、昨日のオレがしたこと」  そう言われると、オレが気付いたわけじゃないので、どう答えようかなと思うのだけれど。 「先輩は気づいてなさそうだったけど、神宮寺さんは気付きましたよね」 「たしかにオレは気付かなかったけど。すぐ友達に言われたし」  言いながら、昴を振り返る。 「あ。もしかして、見張りに来てますか?」  匠はそんな風に言って昴に、すみませんと頭を下げた。 「オレに謝ることじゃないけど」  と、昴が苦笑している。 「神宮寺さん、怒ってましたか?」 「ううん。怒ってはなかった」 「――――何か言ってました? 機嫌悪かったとか」 「……直接は何も。全然いつも通り」 「はー。……それでこれ、かぁ」  匠は苦笑いで言うと、んー、と考えてる。 「……やっぱりやめようかな」 「ん?」  ふ、と苦笑いした後、匠はオレに向かって、すみません、と頭を下げた。 「オレ、神宮寺さんってどんな人なのかなと思ったんです」 「……え? どういう意味?」 「イケメン投票。戦うかどうするか考えてて」 「……ごめん、意味わかんない、どういうこと?」 「オレが先輩に匂い残したら、どんな反応する人なんだろうってちょっと好奇心が沸いちゃって」 「なんだよそれもう……ていうか、颯がどんな人って、そんなんで、何が分かるの?」 「先輩には何も言わなかったのに、でも、この感じでしょ。もう、先輩を大事にしてる大人な感じと、でも絶対渡さねーぞって感が強いですね……」 「……もし颯がオレに怒ったら、何だったの?」 「匂い残されたのも先輩気づいてないし、なんの落ち度もないことに、キレるような大人げない人なら、もしかしたらコンテスト、勝てるかなあ……とか思ったんですけど」 「……」 「……うーん、やっぱ強敵っぽいなあ」  苦笑いの匠に、昴が呆れたように。 「お前のそんな確認のせいで、こいつの周りにいるオレ達が、かなり迷惑こうむってんだけど」 「え、そうなんですか?」 「朝から颯のフェロモン駄々洩れだわ、さっきも色々漏れてるわ」 「あー……」 「すげー迷惑」 「なんか、本当にすみません。……なんかちょっと、悪戯心が抑えきれなくて。もうしません」  そう言った後、匠はオレを見つめた。 「先輩、申し込み出しに行くんですよね? オレも用事あるんで、一緒に行きます」 「何の用事?」 「オレ、今年は辞退しようと思って」 「え、コンテスト?」 「神宮寺さんと戦いたくないんで。勝てる気、しないし」 「――――……」 「怖いですよね、このフェロモン」  と言うので、オレは、ちょっと首を傾げる。  何が怖いんだか、全然分からない。  すると、昴が、ぷっと笑った。 「慧はそういうの、全然分かってないから」 「え。そうなんですか? このフェロモン、何も感じないんですか?」 「え。いや、颯のだっては思うけど……怖くないよ??」  いつだって、颯の匂いは、優しくぽわぽわってしてるし。   「先輩って、大物ですよね、なんかすごく……」  そんな風に言う匠と、「それはそう思う」と返す昴。  なにやらすごく楽しそうに、笑われてしまった。    むむ。何、ちょっと意気投合してんの。もう。  

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