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第128話 夫夫対決?
オレの用が終わったので一歩引くと、匠が一歩前に出た。
「すみません、オレもお願いがあるんですけど」
「はい、どうぞ?」
「昨日、友人がオレをエントリーに来たんですけど」
「はい」
「それを辞退したいんです」
「えっ!」
委員の人達はびっくりした顔をしている。
「せっかく推薦してもらったのにですか?」
「はい。……ちなみにあれですよね、神宮司さんって、今年優勝したら、殿堂入りで、来年は出ませんよね?」
「そうですね」
それを聞いていて、昴と顔を見合わせると、昴もふーん、と不思議そう。おお。そうなんだ、二年で殿堂なんだ。じゃあ今年、応援出来て良かったなあ、なんて思っていたら、匠が笑った。
「オレ、神宮司さんに勝てる気しなくて。負け戦、したくないんですよね」
「そうなんですか……えーと……」
係りの人達もちよっと困りながら、顔を見合わせてたけど。
「あ、でも一応、提出した人が、取り消すってことになってて……」
「え。そうなんですか?」
「確かそうですよね?」
彼女が周りを振り返ると、多分……と皆さん、曖昧。
「書類、確かに受理してますね。三条 匠さんですね」
他の委員の人が、匠の分の、書類を持ってきた。書類の写真と本人を見比べているみたいで、匠がそうです、と頷いた。
「あんまり辞退する人居ないんですよね。エントリーを出した人以外が勝手にひっこめるのもどうかってことで、そのルールがあるんですよ。もちろん、推薦された本人には、参加確認の連絡は行きますけど」
「じゃあその時、断ればいいんですか?」
「そう、ですねぇ。でもできたら、出したのがお友達なら、話して回収に来てもらった方が、こちらとしてはすっきりできるんですけど……あとでこのことでモメても嫌ですし」
「あー。確かに、オッケイはして書いてもらったから、そっか、一応話してからにしたほうがいいのかも……?」
やりとりを聞いてたオレと昴。
「それがいいんじゃないか?」
と昴が言って、オレも頷く。
「じゃあそうします。話して、取り消しに来てもらいます」
にこ、と笑った匠の顔を見た委員たちが、でも、と顔を見合わせる。
「もったいなくないですか? いい線いきますよー?」
「いや。やるなら、一番が良いんで」
明るく言い放った笑顔に、なるほど、と皆納得してる。
おいおい、結構すごいこと言ってるけど、あの顔だと許されるのか? と、ぽけーとして、同じく呆れてる昴と、顔を見合わせて、苦笑してると。
「神宮司慧さん?」
「ん? あ、はい」
オレを呼んだ人に目を向けると、その人は、手元の書類を見ながら首を傾げている。なんだろ、と思いながら、「何か不備ありました?」と聞くと。
「あ、神宮司颯さんの書類じゃなくてですね。神宮司慧さん、推薦されてますけど、ご存じですか?」
「ん?」
きょとん。目を何度かパチパチしながら。
どういうこと? と、昴を見つめてしまう。昴も、首を傾げながら。
「それって、慧が、エントリーされてるってことですか?」
「はい、そうですね」
そう言われて、「ええええ??」と叫んだところで。
横で、匠が、ぷ、と笑ってる。
「夫夫対決ですか? ちょっと興味ありますね」
クスクス笑われて、言われたことに、そ、そういうことだよね、と改めて確認して、「え、どういうこと?」とオレは、また叫んだ。
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