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第144話 顔面に罪はない

 颯と、ちょっと暗がりで、たくさんキスしてから。  なんかぽわぽわ気分で、手を取られて一緒にのんびり歩く。 「慧、夕飯どうしたい?」 「んー。なんでもいい」 「食べて帰る?」  んー……。  今から帰って作って食べて、片付けてだと。  …………遅くなっちゃうなあ。遅くなっちゃうと……。 「ん。食べて帰ろ?」  だって。……早く帰って、颯と……。なんかもう、キスばっかりされて。今もなんか、ほんとはこのまま続きして欲しいくらいだもん。  そんな風に思いながら、颯を見上げると。  ぱち、と目があう。歩く速度がゆっくりになって、何だかじっと見つめられる。  ……颯の睫毛、長いんだよね。可愛い、まつげ。  ふふ、と笑ってしまうと、オレを見てた颯は、ちょっと目を大きく見開いて、ん? と首を傾げて見せる。 「颯さぁ、睫毛が長くて、かわいー」 「――」  ぱちくり見つめられると、余計に睫毛が目に映る。  ついついまた、ふふ、と笑ってしまったオレは、くい、と繋いでいた手を引かれて。 「んぐ」  笑ってた唇に、キスされてしまった。  道路だよー颯ー。見回すと、ちょっと遠くにしか人居なかったけど。  でも、完全に表通りだよー、と焦ってる。と。 「可愛いのは慧だから。オレは可愛くない」 「まあ、颯はカッコいいからねー。……でも、睫毛だけ見てると、可愛いの」  もう、言うたびに、ふふ、という笑いしか出てこない。 「きっと、子供の時、超可愛かったんだろうなぁ」 「んなこと言ったら慧なんか、死ぬほど可愛かったと思うけどな」 「そう?」  そうだっけー? 死ぬほど可愛かったかな? と、笑いながら颯を見上げると。颯も楽しそうに笑ってて。またしても、胸がきゅん。  ああ、だめだ。ほんと。颯が大好き。息吸ってるだけで好きかもしれない。  ……美樹ちゃんの気持ちは分かるんだ。颯のことを本当に大好きだっていう気持ち。颯がオレを好きかもなんて思いながら、側に居るのは辛かっただろうなって思うし。考えるだけで切なくて痛い。  でも……譲ってあげることだけは、出来ないって、思ってしまう。 「慧、食べるとこ、どこがいい?」 「……んーどうしよ。颯はなにか食べたいものある?」 「肉は?」 「肉! オレも食べたい! じゃーハンバーグ! あ、ステーキも食べれるお店あったよね。一回行きたかったんだー」 「あるよな。行ってみるか」  わーいと二人で、喜んで、その店に向かう。……わーいって言ってるのは、オレだけだけど。でも、颯もすごく楽しそうな顔してるし。  繋いでる手が、幸せだし。  ……ごめんね。美樹ちゃんも。これから、颯を好きになるかもしれない、見知らぬ誰かも、ごめん!  颯にはずっとオレと居てもらいたいから。  颯がオレと居て楽しいって幸せだって、思ってくれるように、頑張る。頑張るから……!    なんて、そんなこと考えながら、十分くらい歩いて店に辿りついた。  食事時だからかすごく混んでて、カウンター席でもいいですか、と聞かれて、颯がオレを見るので、うんうん頷く。座りながら、颯がテーブル席を振り返る。 「少し待って、テーブル席のが良かった?」 「全然。隣がいい」 「――――」  何とも言えない顔でオレを見つめて、なんだか颯がため息をつく。 「慧は無意識なんだろうけどさ」 「ん? 無意識?」 「……昔から――言うこととか、全部可愛いんだよな。ほんと」 「――――……」  ぼぼぼ。  そんなカッコいい顔で、隣り合った席で超間近で、しみじみと言われるとかさあ。ほんとに……。  一瞬で赤面したオレの顔に、絶対罪はないのだ。    

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