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第145話 颯の初めて
オレの顔がちょっと落ち着いてから、颯が、そういえば、とオレを見つめた。
「美樹とどんなこと話したのか聞いてもいいか?」
「うん。あ、颯は何を聞いたの?」
「困らせたいって思ってエントリーしちゃった、ごめんなさいってそんな感じだったな」
「なるほど」
それだけか。まあでも、それで分かるもんね。
「そっか、じゃあ……美樹ちゃんが言ったことってより、どうして話すことになったのかーとか、オレが思ったこと、でもいい?」
「いいよ」
ふ、と颯が笑う。
「んと……なんとなく流れは聞いたって言ってたよね?」
「ああ、あいつ。匠?」
言いながら、颯が、ふ、と可笑しそう。
「坂の下で会った時は、あー良かった会えて、って言ってたんだけどな。その後、二人で歩き出したら、なんか緊張してた」
「……昨日怖かったみたいだよ??」
「そっか」
颯はクスクス笑って頷く。
「オレのこと、怖い奴は居るからまあ、慣れてんだけど」
「……颯、怖くなかったけど。最初から」
「――――ん。慧は、な」
ちら、と視線を流されて、目が合うと、颯はとても綺麗に微笑する。
……うーん。カッコイイな。
などと内心はドキドキ浮かれつつ。
「……あ、それで?」
「匠に、何で慧が美樹と話すことになったんだ? って聞いたんだよ。結局申し込んだのが美樹だったことが分かったから伝えて、帰ろうとしたらそこでばったりあの二人に会って……会ってすぐに慧が、何で申し込んだの?ってさらっと聞いてました、って言ってた」
「……そ、そう。まあ。その通り……」
うん、と苦笑しながら頷いてから。
「もともと匠とその友達と、あの教室で話しててさ、もう申し込んだのが美樹ちゃんと孝紀だっていうのが、匠の話で確定したの。でもさ、颯もエントリー自体は、別に悪いことじゃないって言ってたし、オレもそう思ってたし。颯が何もしないなら、良いっていう結論になったんだよ。辞退すれば済むし」
「ん」
「帰ろうとしたら、ばったり会っちゃって……多分オレね、颯がちょっと気まずくなってるのかもって言ってたのがずっと気になってたと思うんだけど……だから、話してすっきりしちゃえばいいのにって思ってたんだと思う……顔見た瞬間にさ、ぽろっと言っちゃって……」
「ん。そっか」
「まあ……言った瞬間、あっ言っちゃったって思って……そしたら後ろから、昴が、バカ、て言ったのが聞こえて」
そう言うと、颯が、ぷ、と笑って口元を押さえる。
「まあほんと……ほんのちょっと前にこのままにするって言ってたからね……」
苦笑いを浮かべてると、そこにハンバーグがやってきた。
颯はステーキ。
「わーい、めっちゃおいしそう。いただきまーす」
話いったん置いといて、手を合わせてから、ハンバーグを口にする。
……おいしい。モグモグ噛みながら、ふと、颯のステーキもおいしそう……。
「颯颯、交換こ」
「いいよ」
ふ、と笑んで、切ったステーキをオレの口の前に。カウンター、意外と誰にも見られそうにないので、ぱく、と食べる。
「おいし。……はい、颯」
オレも颯の前にハンバーグを刺したフォークを差し出すと、颯がちょっと笑いながら食いついた。
……ふふ。可愛い。食べてくれる颯。
颯に食べさせるとか、嬉しいー。
「どっちもおいしいね」
ご機嫌になりながらそう言ったら、ん、と頷いて口元を少し拭いてから。
「……なー慧?」
「ん?」
「こんな風に食べさせてもらうの、慧が初めてなんだよな、オレ」
「えっ」
「ていうか、食べさせてやるのも、お前が初めて」
「……そ、そうなの?」
えーっと。オレは、結構、あーんてされて、ぱくぱく食べてきちやったけど。まあでも、あれには何の意味も、ないしな。
……ていうか。
「颯の初めて貰うの、嬉しい」
「……」
きょとん、とした顔でオレを見た後。
ぷっと笑って、ぷに、と頬を摘まんでくる。
「妙な言い方」
「え?」
「ちょっとやらしく聞こえるよな」
クスクス笑われて、かぁぁ、とまた熱くなる。
「ちがうしっ」
「知ってるけど」
クックッ、と笑う颯。
――――……そういえば。
こんな風に笑う颯も。
……あんまり見たことが無いかもしれない。
颯はいつもなんかカッコよくて。もちろん友達と居て、笑ってるんだけど……たまにオレを見てて可笑しそうに楽しそうに笑う、こんな感じは、見かけてなかった、かも……?
……こういうのなのかなぁ。
オレと居たあと、楽しそうに見えたって、言ってたの……。
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