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第146話 しぬほど
「おいしかったねー」
満足。店を出て歩き始めながら颯を見上げると、そうだなと笑ってくれる。
……あ。そういえば話し途中だった。
「そうそう、さっきの続き。んーとさ。そう、で、昴に馬鹿って言われて、オレもそう思ったんだけどさ、もうその時には、美樹ちゃんも孝紀も固まってたし。話すしかないなーって思って」
「あぁ」
「でもなんか、皆がいるところで話すのは、なんか責めてるみたいになっちゃうかなーと思って……二人になろうとしたら、昴が、颯を呼ぶ?て聞いてきて……」
「ん」
「来てくれても、教室に颯を入れないでってオレ、言っちゃってごめん。待っててくれてありがと」
そう言うと、颯は、ふ、と微笑んだ。
「慧がそう言ったって聞いて、なんとなく意味は分かったよ。多分オレが入ったら、美樹は慧に言いたいこと言えずに、ごめん、だけで終わったと思うし」
「……うん。まあ……どんな話が出てくるのか分かんなかったし。颯に聞かれたくないことは、話せなくなっちゃうかなーと思ったんだよね……なんとなくだけど」
「皆分かってたよ」
「……ん」
ふふ、と笑って、頷く。
「でもごめんね、わざわざもう一度坂のぼってきてくれたのに」
「いいよ。……つか、慧のおかげで二人と元通りだから。それにたぶん、美樹、もうオレのことは吹っ切るきっかけになっただろうと思う」
「そう、なのかな」
「多分な」
頷きながら、颯はオレの手にするりと触れて、手を繋いだ。
颯って、こんな感じの……超クールな感じなのに。わりとすぐ、手を繋いでくれるんだよなー。なんか。そういうとこも、すごく好き。
オレってば、ほんと、好きなとこばっかりで。全部好きって言えはしないけど。ほんと、好き。
「……ああ、そういえばさ。慧は何で泣いたんだ?」
そう聞かれて、う、としばし黙ってから。
「簡単に言うと……美樹ちゃんが、颯のこと好きな気持ちがすごく分かって……前から、颯が、オレのこと、好きなのかもって思ってたみたいで……でもαだからないだろうって思ってたみたいだけど」
「ん」
「……オレのことを好きかもって思いながら、颯の側にいるのとか……最後、結婚とかしちゃったしさ……辛かっただろうなって、思ったら……」
「――――……」
「オレが泣いちゃだめだって思ったんだけど、ダメだったんだよね……美樹ちゃんにも、何であなたが泣くのって、言われた……ってそうだよなあって思うんだけどさ」
思い出しても、やっぱりオレは泣くべきじゃなかったな、と反省。
少し俯きながら歩いていると。黙っていた颯が、繋いだ手をきゅっと握ってきた。
「ん?」
ふ、と颯を見上げると。
「慧のさ……裏表ないとことか、まっすぐなとことか」
「ん??」
颯はすごくじっとオレを見つめてきてて。視線になんかすごく照れると、内心ドキドキしていると。
「バカがつきそうなくらい正直な感じとか」
「……ん?」
バカ? と、ちょっと眉が寄りつつも。ちょっと悩んでるオレを見て、クスクス笑う颯が、とてもカッコいいので。文句は口に出ない。
「……ライバルの気持ちになって、泣いちゃうような、そういうところがさ」
「――――……」
「オレ、死ぬほど好きだと思う」
「――――……」
「美樹たちのことも、別にそのままでうやむやでもいいかなとも思ったし……それでも良かったんだろうけど」
ふ、と颯はオレを見て微笑む。
「お前がしたことの方が、あったかい気がする」
「――――……」
じっと、オレは颯を見つめ返していたのだけれど。
……なんだか、嬉しくて、「そっか」と笑ってしまった。
余計なこと、したかなと思う部分もあったけど。
……颯がこんな風に言ってくれるなら、して良かったんだな、と。
しかも死ぬほど好き、とか。言われた。
「颯……」
「ん?」
「……オレも………………き……」
「……? ごめん、なんて?」
言おうとして、どんどん消えていったオレの言葉に、颯が首を傾げた。
「……だから」
「ん」
「……オレも……颯、しぬほど、すき……」
「――――……」
さらっと言えばよかったのに、めちゃくちゃじーっと見られた中で言うのはちょっと拷問……。と思ったら。
ぎゅ、と手を握られて、早く帰ろ、と言われる。
……あれ、何か、返事は……。うん、とかでもいいんだけど。
なんかすごく恥ずかしいぞ、と思って、少し先を歩く颯を見ると。
なんか、少し照れてるっぽい顔、してて。
「……颯、たまに、可愛い」
なんて言ったら、すぐむっとして「可愛くない」と言い返された。
「からかってるんじゃないよーほんとに可愛い」
颯が照れてるとか感じたら、もうこっちも照れマックスで、死にそうなので、そう言ってごまかしてたら。ぐいっと引き寄せられて。
「帰ったらすぐ可愛がるから」
……とか言われ。
かぁぁぁと、また赤面。
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