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第166話 ぐるぐる

「オレね、先輩」 「ん?」  匠が、オレをまっすぐ見ながら、言うことに。 「……先輩って、ほんとなんか、隙だらけ過ぎて、ほんとに元α?とか、すっげー思うんだけど」 「……んん?」  なんか、失礼なこと、言われてる??  眉を寄せたまま、聞いていると。 「でも――――」  じ、と見つめられる。 「神宮司さんの気持ちは、なんかすごく分かります」 「――――……」  颯の気持ち?  ……って??? 「先輩、もし、神宮司さんと別れたら」 「は?!」 「はい、そこまで」  オレが匠のとんでもない言葉に目を剥いた瞬間。  脇から唐突に出てきた手に、匠はオレの前から消えた。 「お前は馬鹿か」  匠に向かって、そう言ったのは、昴だった。  ……そういえばさっきから何か言いたげな顔でこっちを見ていたのはなんとなく感じていたような。 「そんなことより、慧」 「そんなことって何ですか!」  匠が昴にくいついてるけど、昴は完全にガン無視しで、オレを見つめる。 「昨日からちょこちょこ皆が言ってたんだけど」 「うん?」 「颯の指輪。イケメンコンテストまでは取ってた方が有利なんじゃない? って意見があるんだよなぁ」 「え、そうなの?」 「学内の奴には結婚してるのは結構知られてるけど、外から来てる外部からの票入れるやつ。特に今日は売り子して顔を売ってる時は外した方がいいんじゃねえのって。せっかく応援するからには、優勝した颯が見たいってことみたいだけど」 「あー。……あれか、アイドルに彼女居ない方がいいって感じのやつ?」  オレは自分の左手の薬指を見ながら、そっかぁ……と頷く。 「先輩、そんなのでそんな悲しそうな顔しないでくださいよ」 「なっ。してないし、オレ。別に、しょうがないなって思ってるし。二日間指輪外すくらい別に……」  匠のムカつくツッコミに、即座に言い返してるところに、颯がやってきた。 「慧」 「うん?」 「なんか今変な話聞いて……指輪外した方が有利なんじゃないかとか」 「あ、うん。オレも今聞いた」  その方がいいならしょうがないよね、と言おうとした瞬間。 「絶対外さないから、んなこと言う奴が居たら、そう言っといて」 「――――……」  ぽけ。と、颯を見上げる。 「いいの? でも確かに、外部の票は、結婚なんかしてない方が、はい」  途中で、颯の手に、ぶにっ、と両頬を潰される。 「つか、そんなの聞いたら、俄然このままで勝つからって、思ったし」 「――――……」 「売り歩くついでに宣伝とか、しなくてもいいと思ってたけど、顔は売りに行ってくるから」 「――――……」 「指輪、つけたままで、な。――――つか、当然」  颯は自分の左手の薬指を見つめつつ。 「むしろ、結婚してるから応援しようって思わせる感じで行ってくる」  そんなの、どうやって??? と、思うのだけど。  目の前の超絶カッコいい人は、ふ、とやる気の笑みを浮かべている。 「――――……」  あーもうなんか颯は。  ……ほんとにカッコイイ。  ていうか。 「しょうがないかなって、思ったんだけど……」  言いながら、颯の顔をじっと見つめる。 「すっごい、嬉しいかも」  もうなんか、抑えるのなんか、無理で。  なんかすっごく笑ってしまった。 「――――……」  そしたら。なんと。 「――――……」  顎に手が触れたと思ったら、くい、と引き寄せられて。  突然。……キス、された。  触れるだけ、みたいな。キスだったけど。  周りに居た皆のうち、ちょうどその一瞬、オレ達を見てた人達だけ、ざわついて。その後、見てなかった皆が、何々? とざわついたのだけど、誰も説明しなくって。学祭準備で忙しくてうるさい雰囲気の中、オレ達の周りだけ、しーん、とした。 「――――あとで、一緒に祭り回ろうな?」  なんだか、とても綺麗に。鮮やかに笑った颯は。  よしよし、とオレの頭を撫でて。「ちょっと運営に呼ばれてるからいってくる」と、オレを置いて、立ち去って行った。  なんか頭ンなか、ぐるぐるする……。  好きすぎて。     (2024/6/3)

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