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第167話 ディープ??

 颯が消えて数分。表向きは通常の騒がしさに戻って、皆準備をしているけれど、なんかこう、ひそひそ話と、「きゃーほんとー?」みたいなキャッキャッとした雰囲気が漂っている。  そんな中、横に居る匠はなんだかさっきから、ムッとした顔をしてる。 「ていうか。神宮司さん、あんな公衆の面前で、キスなんてしていいと思ってるんですか」  ぷりぷりしながら言ったセリフがそれ。  オレは、ぷは、と笑ってしまった。 「何笑ってんですか!」 「だってなんか……公衆の面前、てワードが匠に合わないんだもん」  けらけら笑ってると、昴が呆れたように、匠を見てる。 「聞こえてたとは思えないのに、すげーけん制されてて笑える」 「うるさいっすよ、マジで、もー」 「けん制?」  オレが聞くと、「なんでもない」と昴が笑う。 「おー、慧、ディープキスされてたって?」  そんなパワーワードとともに、近づいてきた健人と誠に、「は?」と固まる。 「ど。どこからそんなでたらめな……!!」  この数分で何がどうなってそうなった? と眉を寄せていると。 「あれ? 違うの?」 「えー違うの?」  健人と誠が、なんだつまんね、と笑ってる。 「いや、つまんなくないから! 変なこと言いふらさないように、言っといてよー」  オレが焦ってると、皆、もう無理だろ、と笑う。 「まあこんな感じじゃねーか?」  はは、と笑いながら、昴がふざけた女子の声真似みたいなのを始める。 「颯くんが慧くんにキスしてた~! から始まったけど、その内、めっちゃキスしてたらしいよ~! からの、えーディープ?? みたいな……で、もはや完全にディープキスしてた、っていう。もう、流れ、想像つくじゃん」  おかしそうに笑ってるけど、それどころじゃない。 「ていうか、すごくない? あれから十分たった?」 「たってないですね」  オレの質問に、匠がなんかムッとしつつ、そう答えた。  もー、これからどんだけ広まるんだよ、とげんなりしていると。 「いいじゃん別に。結婚してんのは、皆知ってんだし、今更キスくらいって感じだよね」  誠がかるーい感じでそう言って、オレの肩を、ぽんぽん、と叩いてる。  いやそう言ったらそうだけど、でも、こんな学祭の日に、皆がわいわい準備してるところで、オレ達がそんなことしてるとか……。  ……しかもディープなのを、皆の前でしてるとか、思われることが、嫌なんですけど……。  さっきのキスは、なんかよく分かんないけど、颯は、もう、キスしたくてしょうがなかった、みたいな顔して、キスできて良かった、みたいに嬉しそうに笑ってたから、ついつい、もう、良いやとか思ってしまったのだけど。  んー。颯ってばもう。そんなにキスしたかったのかな。  昨日も今朝もあんなにいっぱいしたのに。  ……でもオレも、キスしたこと自体は、めちゃくちゃ幸せなので、そこは全然いいのだけれど、でもなあ。もう。……なあ。もう、噂流すなら正確に流してよう、それなら諦めるー。  むーんと、考えながら、今日の担当表を眺めてたオレ。  「慧」と呼びながら、隣に来た孝紀を何気なく見上げると。 「なんかさぁ」 「ん?」 「オレ、颯の側にずっと居たけどさぁ」 「うん」 「あんな顔して笑う颯、やっぱ、初めて見た」 「――――……」 「ほんと、慧のこと、誰よりもダントツで、大好きなんだろうなあと、なんか感動するレベル」  しみじみ言われて、はーーー? と、言われたことを自分の中で繰り返していたら。ぼっと顔に熱が集まった。そんなオレを見て、お、と孝紀が笑う。

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