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第176話 「後輩」の颯

 美味しくお昼を食べ終わってから、颯と一緒に、十号館の中庭に進む。 「ドキドキするー」  そう言うと、「本気でドキドキしてるの?」と颯は笑う。  あ、やっぱり冗談だと思ってたなーきっとそうだろうと思ったけど。 「本気。颯の先輩って、なんかそれだけで、絶対頭良さそう……」 「なんで?」  そう言って颯が笑いだすから、もー笑い事じゃないし、と眉を顰めたその時。 「あれ、颯じゃん」 「あっほんとだ~」 「何々、かき氷食べにきてくれたのか?」  あっと言う間に、颯が取り囲まれてしまった。  何だか派手なイケメン集団だな。……皆、α?  ……あれ。今かき氷って言った? そう思った瞬間、お、と顔を見られた。 「あ。慧くんだね」 「おー、颯の番」 「Ωんなったんだって? びっくりしたでしょ~」 「久しぶりに見たけど、やっぱ可愛いね」  どっと囲まれてひたすら焦るけど。  ……こ。この感じ。え。颯の先輩。……チェスの先輩達?? 何か思い描いてた人達と違う。誰も眼鏡かけてないな。ていうか、かなり派手……。 「オレのこと、見たことあるんですか?」  気になったことを聞いてみると、「あるよー」と笑う。 「颯に張り合ってる子、って言って、結構オレらの仲では有名だったから」 「高校ん時も見たことはあるけど。会いたかったんだよな」  なるほど。オレは知らない先輩ばっかりだけど。颯側から見て、オレのこと知ってたのか。と納得。 「高校の時張り合ってたαの子と結婚とか、変性が、とか冗談かと思ったけどなー?」  先輩達は、囲まれて苦笑してる颯を振り返って、楽しそうに笑った。 「慧が可愛くてしょうがない、なんて言うんだもんな。信じるしかなかった」 「なー、それな、ほんとに」 「えっ」  可愛くてしょうがない?? ぱ、と颯を見ると、オレに微笑んでから、先輩達の方に視線を向けて、「だからそういうの、照れるんで、ばらさないでください」と先輩に言ってる。 「颯が照れるとか、ウケる!」 「なーいっつも涼しい顔してるし」 「照れろ照れろ」  颯と先輩達があれこれ言い合ってる。先輩達のイメージ、話せば話すほど違うし、しゃべってる感じも思ってた感じと全然違うし。  ……ていうか。  あ、ちょっと颯が可愛い。なんか、「後輩」って感じ。  この感じの颯は、初めて見るかもしれない。  ――――色んな颯が、いるんだなあ。なんて……当たり前かぁ。  そんな颯も好きだなあ。なんて思いながら、なんだかほのぼのした気分で、颯と先輩達のやりとりを眺めていると。   「オレは高校違うから初めましてなんだけど。顔、見たかったから来てくれて嬉しいな」  また違う先輩に話しかけられる。  おお。この人もすごい顔整ってる。チェスやる人ってイケメンなのか? とまた変なイメージがつきそうになってくる。 「でっかい瞳だねー」  クスクス笑いながら言われて、そうですか? と見つめると、「ですよね」と颯が隣で笑う。 「こういう感じが、可愛いの?」 「まあそこだけじゃないですけど」  ふ、と颯がオレを見つめる。うう。なんか颯の、普通に可愛いとか言っちゃう感じに、オレはまだ内心とっても狼狽えちゃうので、あんまりついていけない。ちょっと返事できずにいると。 「んー。なんかここだけアッツイよなぁ?」  先輩達に言われてからかわれてるけど、颯は「妬かないでください」とか言って、先輩たちは余計面白そうに笑ってる。   「あ、二人、かき氷、食べる?」なんて聞かれて、「あ、はいっ」と頷く。 「何味がいい? ここに書いてあるけど。颯も何がいい?」  看板を指さされて、颯と二人で見上げた時。目に飛び込んできたのは。 「あっ! 颯だ」 「あ」  かき氷という看板の端に、颯の写真が飾ってあって、「チェスサークル推し イケメンコンテスト優勝候補」とか、なんだか色々な売り文句が書いてあった。 「え、これあるの、知ってた?」 「……知らない」  苦笑しながら見上げている颯に、えっ、とびっくり。笑ってしまう。 「すごくカッコいいよ、この写真」 「そう?」 「うん、めちゃくちゃカッコいい。ふふ」  二人で笑ってると、先輩達が、「仲良さそ」と笑う。  

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