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第202話 号泣はしないけど。

「あっ! お疲れー!!」  そう言ったら、匠は、少しだけ頷いた。なんかもっと楽しそうに戻ってくると思ったら、なんか今の方がさっきよりも……緊張なのかな? なんかそんな風に見えるような。 「すっごいびっくりした。けど、皆、超カッコよかったよ……!」  言った瞬間、なんか、匠が、む、と眉を寄せて。  なんか隣の昴から、ため息が聞こえた。え。と振り返ると、昴と目が合う。すごく何か言いたそう。  ――ええ、と……。  なんかさっき、昴に何か言われたな……。あ。  他の皆も、おかえりーとか、良かったよーとか、言ってる中。  横を向いてる匠の腕を、くい、と引いて。 「匠」 「――」 「すっごい、めちゃくちゃ、カッコよかった!」  別に言われたからじゃなくて――思ったことを伝えたのだけれど。  なんか、匠は、む、とまた口をつぐんで。  それから、軽く握った拳を口に当てて、「はあ」とそっぽを向いてしまった。  ……えっ何その、超そっけない感じ……。  ありがとうございますって満面の笑顔で喜んでくれるかと思った。 「聞いてる? 匠、超カッコよかったって言ったんだけどー??」 「……聞きました」 「嬉しくないのー? めっちゃカッコよかったけどなぁ……」 「――」  もはや返事をくれない。 「慧」  昴の声に振り返る。 「ん?」 「ほら、始まるから」 「あ、うん。あ、そうだ、匠」 「――」 「さっき、颯に何て言ったの? ステージで。なんかすごくいい感じに見えたんだけど」  ふふ、と笑って、見上げると。なんか、ぼそっと。   「――――優勝して、来年、花束くださいって言いました」  ちょっと考える。  あ。颯が優勝した後、匠が優勝するってことか。  だから、颯、あんな風に笑ったんだ。 「わー、何それ、めちゃくちゃカッコいいね!」  めちゃくちゃ笑顔になってしまった瞬間。  早く来い、と昴に引っ張られる。 「え、何?」  もともと昴がカッコいいって言えって言ったじゃん。別に言われたから言ったんじゃないけどさぁ、でも言えっていってたのに、さっきから何で呼ぶの。まだ五分経ってなくない?  「もう、何だよー、昴?」 「やりすぎも良くないんだよ、お前は」 「え……何を? 褒めすぎた??」  ってそんなこともなかったような。  皆も言ってたじゃん、カッコよかったって。今も、匠たち、他の皆に囲まれて、良かったよーって言われてるし。 「もう、良く分かんないなぁ、もう」 「いいよもう、分かんなくて」  呆れたように言う昴に、ちょっと眉が寄るけれど。 「――んー、でも、なんかさ、昴」 「ん?」 「颯が優勝して、来年、匠に花束渡したらさ。なんか感動して泣いちゃうかもしれないよね?」 「――号泣しとけ」 「号泣はしないけど」  なんだか、想像すると、すごく、イイ気がする。楽しいだろうなあ。匠を応援するのも。  ふふ、と笑ってしまう。  

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