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第203話 予想外なスタート

「では、皆さん、用意はいいですか!」  そんな声に、スマホを触ってた皆が顔を上げる。 「それでは事前投票の結果を、発表したいと思います!」  司会者が言った瞬間、ライトが派手に回って、ドキドキする音楽が流れてきた。それぞれの立候補者の名前の横、棒グラフみたいなのがどんどん増えていく。しばらくは四人とも伸びていって、その内、二人の数は止まった。残りは、颯と、|宮野 雄一郎《みやの ゆういちろう》、という人のが、伸びていく。 「なんかもう一騎打ちみたいな感じ?」  誠が言うと、健人が「まだ当日票の方が多いだろうから分かんないな」と答えてる。  伸びがゆっくりになっていって、ぴたっと、止まった時。  当然、颯が一位だと思ってたオレの目に飛び込んできた情報は、すぐには信じられないものだった。  多分、観客の人達も、そう思ったんじゃないのかな。なんか、一気に会場がざわついた。 「――――」  え。嘘でしょ――。声が、出ない。  周りの皆がオレを見るから、思わずびっくりしたままで、皆を見つめ返してしまった。  颯が二位? そんなはずないし……!!  ――つか、誰、宮野雄一郎って! あの中のどれだーー??  颯よりカッコいいやつ、あそこにいないのにー! 「つか、お前、泣くな、まだ」  昴に呆れたように言われる。「だって」と言うと、「慧」と呆れて呼ばれる。 「事前投票だけだから。泣くなら、終わってから泣け。つか、絶対颯は負けないんじゃなかったのか?」 「――そう、だけど」  でもとにかく、そうだ、昴の言う通り。  事前投票だけだ。  ――――でも事前投票ってさ。  あの、学校でひたすら貼られてた写真をもとにやってるんだよね? 「ねえねえ、あの写真、どう考えたって、颯が一番カッコいいよね??」  むむむむー、どういうことー?? と思ってると。 「泣かないのはいいけど、怒るな」  昴が今度は苦笑している。  はっ! 颯の反応は??   ドキドキしながら颯を見ると。後ろのモニターを振り返って、ふうん、て顔してる。なんか至って、普通の顔。 「ほら。颯は、余裕じゃん。まだ勝負分かんねえってことだろ」  ……確かに。  ――ていうか、颯。カッコイイな。超されてても、全然へっちゃらそうなところ。そういうの。マジでカッコいい。  颯って。なんか。オレの時もそうだったけど――。  やっぱり、負けるとか勝つとか、あんまり気にしてないのかも。  自分がちゃんとしてれば、それでいい、みたいな。  そんな気はしてたけど、こうなってもあんな感じなんだ……。  でも。それでも――颯に勝ってほしい。  ……颯の、いいとこ。伝わって勝ってほしい。 「――ああ、これだな……」  さっきからスマホで何かを見てた昴が、ほら、と見せてくる。  皆で覗き込むと。 「宮野って候補、去年のコンテストで颯に負けてから、SNS始めてる。まあまあイケメンだし、金持ちだしαだしっつーんで、フォロワー多い。色んなのやってて、集めたら結構なフォロワー数。しかもモデル事務所に入ってて、そっちの方でも、拡散してるし。一般人も、今回面白がって、結構拡散してる」 「――SNS……」 「だから事前投票で票を稼げたんだな。そもそも、普通は事前投票なんてしねえだろ。コンテストの様子を見ながら投票しようって奴がほとんどだし」 「……でも……それで、差がついちゃってて、まだこれからも拡散されてたら……」  ……負けちゃうとは、言いたくなくて、口を噤む。  すると、隣で聞いてた匠が「慧先輩?」とオレを呼んだ。  ふ、と匠を見上げると。  なんか、眉を寄せてて、ため息をついた。 「そんだけ色々使って拡散して誘導しても、こんだけ競ってるって話でしょ」 「――……」 「あの人、負ける気、無さそうですけどね?」  そう言われて、視線をステージ上に向ける。  候補者たちの中で――颯は、なんか楽しそう。 「つか、そんな簡単に負けてもらっちゃ困るんですよ」  そんな風に言って笑う匠を、見上げる。 「だから応援しましょ」 「――うん!」  確かにそうだ。  何弱気んなってるんだ。  絶対事前も一位だって信じ切ってたせいで、なんかショック受けちゃったのかも……! ダメだな、オレ。  颯があんな楽しそうな顔、してるのに、そう簡単に負ける訳ない。 「匠――」 「はい?」 「――すっごい、ありがと!」  めいっぱいの感謝を込めて、そう言ったら、なんかちょっと眉を顰めて。それから、はー、とため息をつかれた。  ――つか、何で?? うんって言ってよ??  首を傾げながらも、オレは「応援する!」と前を向いた。  

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