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第205話 百面相?
オレが気づく前から、颯は、オレが変性したって気づいてくれた。
運命の番。
検査でそう言われる前から、颯は、オレ達が運命って言ってくれた。
オレがずっと颯に張り合ってたのは――。
意識しまくってたのは、颯に認めてほしかったから。
オレの存在を、無視しないで、オレを見てほしかったから。
きっと、それが虚しくなって、やめたんだ。
――意識してたのは。
多分、ずっと、好きだったから、意識。してた。
でも、昴たちも言ってたけど、あんな、うっとうしかったと思うオレをそう思わずに、可愛いとか言ってくれちゃうの。すごいと思うんだよね。
めんどくさいこと、してたのに、オレ。……ものすごくその自覚、あるし。
颯がイイ男なのは、動じず、まっすぐ前を見てて、でも周りのことも考えてて。――美樹ちゃんとかの推薦の対応だって……懐が広いっていうのか。
颯の心の中って、広くて、青くて、静かな深い、海みたい。
とか。
思ったりする。
でもって――あの感じで、カッコいい。
ステージを歩き終えた颯の票は、見る間にどんどん伸びていく。
「これ、おもしろいな。あいつ、ここからどれだけ伸ばすんだろ」
昴が横で、ふ、と笑う。
「逆転すんの見たいよな」
「ずっと一位より、カッコいいよな」
「なー!」
皆が言うのを聞いて、うんうん頷きながら、次の奴。
暫定一位の宮野。悔しいけど、様になってる。歩き慣れてるというか。
「モデルやってんだよな……あいつって」
誠が、んー、と顔をしかめてる。
宮野が観客の真ん中に来た時、わっと、歓声が起こった。急に何、うるさ、と思いながら、そっちに目を向けると。ニ、三十人くらいのなんか派手な集団。今残ってるの学生が多いんだけど、なんか年もまちまちな。
「あれかなー事務所の人達とかかな」
「そうかもな」
むむ。
オレもさっき、颯が来た時、ぽーーーっとしてないで、声出せばよかった!
「今度、颯の出番になったら、応援しようねっっ」
そう言うと、皆が、はいはい、と笑ってる。
「でもまあ、颯は歓声が無くてもいけそうだけど」
なんて昴は笑うけど。
そうだけど……でも、歓声が動画で見てる人達に聞こえたら、すごく人気あるみたいに思われちゃうかもしれないし!
もーオレは、今度は、声が枯れるまで、応援することにした。
暫定一位の票も伸びてしまい、順位は変わらず。でも一位と颯の差は縮まった、気がする。
熱気につつまれたステージ上に並んだ四人の候補者。
自己紹介が始まった。これは普通に学部、学年、名前。それから何か一言どうぞ、ってことだった。
「これからいくつかアピールして頂くポイントがありますが、その直前の順位で、順番を決めます。今はまださっきの順番のままで進行します」
司会者の説明に続いて自己紹介。今、四位の桜井さんは英文学部三年。三位は石川さんが商学部二年。二人が自己紹介と一言挨拶を終えて、次は颯。
落ち着いてて、良く響く声が、めちゃくちゃカッコいい。簡単に挨拶をした後に続けて、司会者が、「神宮司さんは去年の優勝者です。優勝したら殿堂入りになります」と追加情報を伝えた。
「しかも、この一年の間になんと! ご結婚されたんですよね!」
「そうですね」
瞬間、会場がちょっとざわざわ騒がしくなった。周りを見てると、知らない人も居るみたい。やっぱりこういう情報っていらない人もいるよな……。
前でその会話がされてる時。一緒に屋台をやった皆も、なんか、ざわついて、顔を見合わせてる。
「あれ、ここでは言わない方が良かったんじゃないのかな」
誠がちょっと眉を寄せて、言う。
「――んー、まあでも颯、指輪したまま出てるし」
健人は苦笑い。……確かに颯は、結婚してても優勝するって言ってたな。
というか、確か、むしろ結婚してるから応援しようって思わせる……とか言ってたような気もする。でもどうやって……だろう。
何だか少しざわついたまま、次の宮野の番。国際学部二年か。
モデルをしてます、よろしく、みたいなことを言うと、またあの集団が盛り上げてる。その様子を、すかさずカメラの担当の人が映している。そこ写すなー! ていうかなんか、二画面にして、上が宮野で、下が観客席。なんかいい画面になってるしー!
オレもさっき盛り上げようと思ってたのに、結婚の話になっちゃったから、こっちの皆、微妙な雰囲気になっちゃったじゃないかー! 司会者ー!
他意は無いと思うのだけど、オレが心の中でむかむかしていると。
――なんか、ここで、宮野の票が伸びてる気がする。自己紹介のとこは皆大したこと言ってないからそこまで票は動かなかったんだけど。
ていうか、やっぱり颯の、結婚の話は、ここてはしなくても良かったんじゃないだろうか。だって動画見てる人達も、えー既婚者―? てなってるかも……。
てか……モデルだからなんなんだー!! ってオレ、宮野って呼び捨てになってる。知らない人だけど。と気付いた瞬間、ちょっと真顔。……まあ、いいか。宮野で。
「慧、百面相、気が散るからやめてくんない?」
苦笑の昴に言われて、「気が散るって何」と言いながら、「百面相なんてしてない」と続けたら、「ずっとしてますよ」と、匠たちが笑う。おかしいな。なんでだろ?
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