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第206話 好きな理由
その後は、早押しクイズ対決。机が用意されて、雑学チャンピオンは誰かーみたいなのが始まった。イケメンコンテストに何の関係が……と思ったら、知性も必要ってことらしく。
桃太郎のお供は? 源氏物語の作者は? 蝶の数え方は? とか。
知っててもいざとなると、ぱっと出てこないみたいで。
颯は、雑学系には強くて、そっちはポンポン答えるのだけど、漫画とかのキャラクターとかは弱いらしくて、問題が出た瞬間に、無理、みたいに呟いて頭を振ってたり。なんかそれでどっと沸いたり。
答えてる颯はカッコいいし、無理ってしかめっ面の颯は可愛いし。なんかオレ的にはキュンキュンしながら、クイズ対決は終わった。
クイズの正解が多いから勝ちってわけではないらしく、一体これは何だったんだと思ってたら、なんか、颯の票が伸びてて、キュンキュンしてたのは、オレだけじゃないのかなって思ったけど。
「ねーねー、孝紀、颯ってクイズ得意なの??」
「クイズが得意っていうか、覚えたことを忘れないかも。颯。本とかも適当にたくさん読んでたし」
「色んなこと、知ってるよね」
と、美樹ちゃんも話に入ってくる。
ほえー。すごいねぇ、でも確かに、色々知ってる気がする、と言ってるオレの横で、「こっわ。何それ」と匠。むむ、何その言い方、と振り仰ぐと。
「だって、怖いでしょ? つか、出来ないことないんですか」
「――颯にできないこと……?」
うーん。何だろうね。それ前も考えて、結局見当たらなかったような。
と考えていたところで、「それでは皆さん!」と司会者が声を上げた。
「皆さんは、イケメンの歌声を聞きたいですかー?!」
突然の質問に、わっと会場が沸いた。
「聞きたい!」みたいなことを、口々に叫んでる。
えっえっ、歌声?
そういえばオレ、颯が歌ってるとこ見たこと無い!
でもでも、家でたまに口ずさんでる歌声がめちゃくちゃ好きなので、絶対カッコいいに違いない。
「得意なものとして、ダンスや歌や一発芸から選んでもらったんですが、偶然皆さま、歌を選ばれたので、好きな歌の一番を、それぞれ歌って頂くことになりました~! 練習で聞かせて頂いたのですが、皆さま、とてもイケメンでした! ごゆっくり、お楽しみください」
その声に、観客はいいぞー!と騒いでいる。
「コンテスト用の書き込みできるとこ見つけたーリアルタイムで書きこんでいけるみたいだよ」
誠が楽しそうに、スマホを見せてくる。
「慧、なんか書き込む?」
「んんん? 何が書かれてるの?」
「なんとかくん、これがカッコいいーとか、カッコつけすぎ―とか、良いのも、悪いのもあるかな」
「んんー。いいや、ドキドキするから見たくないし! 颯、見てる!」
「ははっオッケ」
誠が笑ってそう言うと、昴も横で見てたけど。
「まあでもなんとなくコメント見てると、やっぱり、颯とあいつの一騎打ちって感じ。颯、歌はうまいの? あいつの歌。聞いたことないけど」
「口ずさんでる時は上手だけど……」
そう言ったオレの言葉に続いて、「だけどじゃないでしょ」と美樹ちゃんが言った。
「颯が音痴なんて、ある訳ないし。歌手もいけると思うし! ねっ、孝紀」
「はは。そうだね」
好きな子が、圧倒的に颯を褒めているのを聞いて、面白そうに笑える孝紀は、本当にすごいなあと思いながら頷いていると。
二人が先に歌ったのだけど、もうなんか普通にうまい。
……普通の人って、あんなステージで普通に歌えるものかな? オレはきっと、何人かで歌うとかなら楽しくいけるけど、一人でって。颯もさすがにドキドキなのでは……。
オレが死ぬほどドキドキしていると。
マイクの前に立った颯の顔を見たら。
……ドキドキとか、してなさそう。と、静かでまっすぐな視線を見て、きゅ、と心臓を掴まれたみたいな。
歌い出した歌は、オレは知らない曲だったけど。静かで綺麗な音楽。
マイクを通して、少しいつもと違く聞こえる颯の声。うまいなあ。カッコイイ。オレは息が止まる。
「うわー。めっちゃラブソングじゃん。颯があんなの選ぶとか……」
孝紀がそんな風に言って、オレを見て、ニヤニヤしてる。
……む。ラブソング。
――え。オレに?? って図々しい? え、でも、オレに??
うろたえてるオレは、その瞬間。
颯と目があって。――ますます息ができない。
ずっと見つめ合ってる訳じゃなくて、視線はまた会場に流れていったので、なんとか、息を吐けたけど。
なんだかもう、だめだ、オレ。
気持ちが忙しすぎて、めちゃくちゃ、疲れる。どんな顔して見てればいいのか、ほんと困る……!
一曲の一番だけ。短いはずなのに。
なんかずっと聞いてるみたいな不思議な気持ち。
――ほんと。
颯は、何でオレを好きになってくれたのかな。
好きって、言ってくれてる颯のことは信じてるけど。
不思議なんだよな。
なんでもできるし。
カッコよすぎだし。
「素晴らしい歌声を、ありがとうございました~!」
司会者の言葉で、オレは、はっと我に返った。
歓声の中、颯は、涼しい顔、してる。
それもまた、カッコいいなーと思う。
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