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第207話 運命の番
歌が全員終わった時点での投票結果は、まだ順位は変わらず。颯、追いかけてはいるのだけど。
司会者のアナウンスで、四人の衣装替えと十分間の休憩になった。
「……ドキドキしすぎて、つらいー」
自然と自分の胸の辺りを掴んで、はーとため息をついたら。
周りの皆が、「分かる」と笑う。
「特に慧には、颯の視線が飛んでくるからな」
昴が言うと、匠がため息。
「あんなステージ上から、奥さん見る人、います?」
「それなー?」
誠が面白そうに笑うと、皆も、確かに、と笑ってる。
「なんだかなーマジで。歌まで、うまいし。ほんと、なんなのって感じ……」
「……んん。褒めてるの? 文句……?」
なんかもうぽわぽわした気分のまま、匠を見てそう聞くと、なんか膨らんでる?? とすぐ、そこに、昴が「大丈夫、お前らのバンドも、良かったから」と笑いながら入ってくる。
昴が「な?」とオレに聞いてくるので、「うん」と返す。それでも、匠は、眉を寄せて。
「神宮寺さん、できないことってないんですか? 一番長い付き合いの人って誰なんですか?」
そんな風に言った匠に。
「オレ達かな?」
「そうかも」
孝紀と美樹ちゃんがそう言って顔を見合わせてるけど。
「できないことって、なんかあんまり浮かばないかも」
「そうよね……料理も上手だもんねー」
ふふ、と美樹ちゃんが笑う。
「だよな。慧、作ってもらってる?」
「うん。一緒にも作るけど。作ってくれる時もある」
「うまいよな。ぱぱっと作ってくれたこととかあってさ」
友達にもぱぱっと振る舞う颯……。んー。かっこいい。
いつも一緒に作ったりするけど――颯と初めて、そういうことした日に作ってくれた、ご飯と照り焼きチキンと半熟目玉焼きの。ベッドで食べさせてくれたあれが、忘れられない。すっごくおいしかった。なんて思い出しながら。
――颯の出来ないこと……。皆で言ってても出てこないって。
むむむ。
「……なー。分かる奴いるかな」
オレがちょっと声のトーンを落としたら。
「「「ん?」」」
周りの皆が、真顔でこっちを見つめた。
「そんな真剣になられると困るんだけど」
苦笑してしまうと、皆が、「こっちのセリフ」「何急に真面目モード」と笑う。
「んー。……颯ってさ、オレのどこがいいのかなぁ……」
オレの言葉に、皆は目を点にしてるような。
あれ、と思った瞬間、昴が吹き出した。
「すごい勢いで、運命とか言って、突然結婚したくせに、今それ?」
昴が面白そうに言うと、まわり中、笑いながら、「何をいまさら」みたいなことを言うんだけど。
「だってさー、できないことないかも、とか言われてさ。何でも出来てさ。カッコよくてさ――……何でオレなのかなあって、さっきから不思議で」
「ていうか、慧だって、モテモテαだったし」
「張り合ってるツートップだったじゃん……何でとか、考えなくていいんじゃないの」
「ていうか、もう最大にノロケてる感もあるけど」
皆、オレを見て、クスクス笑ってる。
「――んー……? 何で笑うの。オレ、結構真剣なんだけど」
むむ、と眉が寄っていくのが自分でも分かる。
「こういうのって、本人は分かんないのかなあ?」
「ねー、見てれば分かるよねえ」
「いや、慧が鈍すぎるだけだろ」
「ですね、先輩は色々鈍すぎですからね、マジで本当に」
「……なんか最後、匠だけ、強調がすごすぎるんだけど」
「いや、オレだけじゃ無くて、全員の総意でしょ」
はー、とため息をついた匠は。
「オレらに聞かずに、本人に聞いてくださいよ」
「――えーだって……」
「だってなんですか」
「……いや。なんでも、ないけど……聞きにくいし」
なんか皆は、ちょっと黙って、それから、クスクス笑う。
――と、その時、また音楽が流れて、司会者二人が登場した。
「あ。始まる――まあ、そこらへんは、終わったら、颯に聞いたら」
「そうそう」
皆が口々にそう言って、ステージに向き直る。オレも、ステージの方をまっすぐに見つめながら。
――颯本人に聞いてさ。
「そう言われてみると、そんなに好きじゃなかったのかも」なんて。言われたら嫌じゃん。
って。こんな考え方してちゃだめだよな、オレ。
「運命の番」がすごすぎると、ちょっと釣り合ってるか、不安になっちゃうのかも? 珍しいな、こんなこと、オレが考えるの。颯がすごすぎるからなぁ……なんて思っていたら。
「――オレは、神宮寺さんが先輩を好きなの、知ってますし」
匠が、隣で、オレにそう言った。
「……そう?」
「どこを、とかじゃない気もしますけどね」
「……ん。そう??」
「まあ、とりあえず――応援しましょ。優勝してもらって、オレは、来年絶対、あの人から引き継ぐんですから」
なんだかとってもやる気の匠に、ふふ、と笑ってしまう。
「ん。応援する――ありがと」
そう返したら、匠は、オレを見つめて微笑んだ。
(2024/11/22)
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