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番外編 バレンタインデー 2
颯と連絡とると、なんか、気持ちがほくほくになるなぁ……。
そんな風に思いながらスマホをしまったところで、前から匠が歩いてくるのに気づいた。
「あ、先輩――」
「うわ、匠、なにそれ。すっごい貰ってる?」
なんかめっちゃ荷物持ってる。
「ていうか、先輩には言われたくないって感じだけど」
匠が苦笑しながらオレの紙袋を見てる。
「オレのは友チョコだからさ。匠のは本命っぽいね」
「……そーですよ、オレ、めっちゃモテるんで」
なんか目が細くなって、ちょっと眉が寄ったような。
「何でそれ言いながらちょっと怒ってんの??」
「別に怒ってないですけど――それより、先輩、今チョコ、食べれる?」
「え? 今? ……まあ、うん。食べれるけど」
どういうこと? と思って、匠を見ると。
鞄から取り出した、可愛い包みに入ったチョコを開いて、そのまま食べやすいように、目の前に出される。
「これ、食べて」
「あ、うん」
もぐ。
……うわ、なにこれ。めっちゃフルーツな感じ。オレンジの香りが鼻を抜けてく。
「おいしー」
そう言うと、匠はなんだかとっても得意げに笑う。
「でしょ。オレが一番お気に入りなチョコ」
「へーどこのお店のチョコ? 買って帰ろうかな」
駅前の店に売ってるかなあと思いながら聞いたら、匠は「は?」と眉を顰めた。
「――絶対教えない。とりあえず、それオレからのチョコね。味わいながら授業行ってください」
「え、何でー? ていうか、これバレンタインのチョコなの?」
クスクス笑いながら聞くと、ますますむぅ、と眉を寄せて。
「そうですよ」
と、ぶっきらぼうな感じで頷く。
「え、じゃあ……お返しいる?」
「……じゃあ、いっこ」
「いっこでいいの?」
ふ、と笑ってしまうと。
「いっこで良い。先輩が好きなやつ」
「ん、分かった」
「じゃあまた――あ、チョコだけど。さっき昴先輩とかにもあげたから」
「あ、そうなんだ。おいしいって言ってた?」
「言ってましたよ」
「そっか。うん。ありがと、美味しかった」
「――はい。あ、あとこれは、オレの妹から」
「あ。莉子ちゃん?」
「そう。名前覚えてた?」
「プロポーズされた相手だし」
クスクス笑いながら言うと、匠も苦笑しながら、小さな箱を渡してくる。
「これは、お兄ちゃんたち二人に、だそうです」
「あ、颯とオレ?」
受け取りながら、ほっこり笑ってしまう。
「颯と一緒に食べるね。ありがとって伝えて――――ホワイトデー楽しみにしててって」
そう言うと、匠はちょっと肩を竦めて、ふ、と笑って頷いた。
「兄妹ふたりから、バレンタインもらったの初めてかも。ありがと、じゃあね!」
「はい。また」
微笑む匠に手を振って授業に向かいながら。
……はて。何で店、絶対教えないんだろうと一瞬思いつつ、階段を上る。教室に入って、見知った顔が座ってるところに近づく。
「昼より増えてるし」
オレを見て、誠が笑う。「友チョコの方が渡しやすいんじゃないかなって思えてきた」とオレは答える。だって、なんか、去年とかよりずっと多い気がするし。
「まあもう結婚してそう言う意味じゃないけど、渡しておきたいって感じかもな」
とか言ってる健人や皆だって、それぞれ何個も貰ってるみたいだけど。しかもきっと、本命が多いんだろうなーと。αってほんとモテるよな、と思いながら誠の隣の席に座ると。
「今日、匠に会ったか?」
前の席の昴が振り向いてそう聞いてくるので、うん、と頷いた。
「フルーツのおいしいチョコ、いっこ貰った。あと妹の莉子ちゃんからも貰った」
クスクス笑ってしまいながら言うと、「ああ。そっか、良かった」と昴。
良かった? と首を傾げると、「お前のこと探してたからさ」と昴が笑う。
「匠のは、昴も食べたんでしょ? おいしかったよね」
「――――んーまあ……もらったけど……」
「ん?」
なんだかちょっと何か言いたげ? 続きを待っていると、昴は、ふ、と苦笑した。
「いや……あれ、うまかったよな」
「うん。おいしかったね――――あ、そうだ。今日さ、やっぱり颯に買って帰ることにした。だからこの授業終わったら、先にダッシュで帰るね」
周りの皆にもそう言って、「颯には用事って言ってあるから、帰り会っても内緒ね?」と伝えると皆、はいはいと頷いてる。
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