219 / 228

番外編 バレンタインデー 5

「にしても荷物多いな。少し持つ?」  颯が優しく聞いてくれるけど、なんとなく、颯のバレンタインと、今日皆にもらったものなので、颯に持って貰うのは違う気がして、大丈夫、と答える。そか、と笑う颯はそれ以上言わないから、なんとなく分かってくれてるのかなと思う。  外はそれなりに寒いのに、繋いでる手はぽかぽかあったかいし、なんだか心の中も、ほんわかしてる。その上、頬まで熱くなると、もうおかしい。オレは寒さをほとんど感じないけれど。 「颯、ごめんね、寒いのに」 「つか、慧を迎えにくんの、嬉しいし。ごめんねとかいらないよ」 「じゃあ……ありがと」 「ん。そっちが正解」  颯はクスクス笑いながら、手を繋いでない方の手で、オレの頬にぷに、と触れた。一瞬だけ触れたあったかい手。ますます心の中、ほわんほわんしたまま、マンションに帰り着く。  うう。好きすぎるんですけど。オレ、颯のことが。  昔は想像もできなかったくらい、颯の言葉はいつも優しい。それから、オレには嬉しい誤算なんだけど、颯はオレから見てもクールな感じだったから、こんな風に、優しい接触とか、めちゃくちゃふんわり笑ってくれるとか、むしろ颯の方からイチャついてくれるとか。あんまり想像できなかったから。  颯と過ごす時間が増えれば増えるほど、なんだかもう、好きな気持ちが、どんどん降り積もっていく。  玄関を開けると、なんだかすごく、いい匂い。 「めちゃめちゃいい匂いがする」 「煮込みハンバーグかな」 「えっおいしそう……!」 「バレンタインで検索して出てきた中から早めに出来る料理、選んでみた。準備手伝って」 「もちろん」    紙袋のチョコたちは、とりあえず紙袋のまま、キッチンの端っこに並べておいた。料理はもうほとんど出来てたので、お皿によそったり、テーブルに並べたりする。  ハンバーグを温めてる颯の近くで、フランスパンをトースターに入れながら、オレはふと気になって颯を見つめた。 「颯、今日、チョコもらった?」 「今年からは受け取らないって伝えたから。貰ってないよ」  あ。そっか……。えーと……。  さすが颯さん。抜かりないというか……オレがアホなんだろうか。 「……それ、オレにも言っといてほしかった。そういうの前もって、思わなくて……というか気づいたら今日がバレンタインで」 「たくさんもらった?」 「ん。皆、友チョコだよって言ってたから、断るのも変でさ」 「友チョコならいいんじゃない? オレはョコ自体あんまり食べないから、結婚したしもういいかなって――毎年困ってたし、良い機会だったというか」  ふ、と苦笑して、ここだけの話な、と颯が言うのを聞いて、うん、と頷く。 「んん、でも、それでもごめん、気付かなくて。もうすぐバレンタイン、とかは分かってたのに、今日、貰ってから、気付いて」 「ん、全然。いいよ」  クスクス笑って、颯はオレを見つめてくる。  優しく緩んだ瞳に、本気でいいよって言ってくれているのは分かるのだけれど。 「ごめんね?」  もう一度そう言ったら、颯は、じっとオレを見つめて、クスッと笑う。 「いいって。全然気にならないし」 「――……やじゃないの?」 「全然。別に来年も、いらないとか言わなくていいよ」 「……ほんとに?」 「ほんとに――――はい、持ってって」  めっちゃめちゃおいしそうな煮込みハンバーグのお皿を渡されて、わぁ、と笑顔になってしまう。テーブルに置いて、颯がまたよそってる側に立つと。 「慧にも貰ってほしくなかったら、ちゃんとそう言ったよ」 「貰わないでって? 颯、言わなそう……」 「んー? 貰ってほしくなかったら言ったけどな?」  クスクス笑って、颯はオレを見つめて、「はい」とお皿を渡してくる。  テーブルに運ぶ後ろから「ちょっと飲む?」と颯が声をかけてくる。 「美味しそうな梅酒が売ってたから買ってきた。炭酸で割って飲む?」 「飲む―!」 「少し薄めにな。明日学校だし」 「うんうん」  颯、好き。梅酒も好き。なんて思いながら隣に立つと。オレを見て、ふ、と笑った颯に、不意にすぽっと抱き締められた。  ぽふぽふと頭を撫でられる。

ともだちにシェアしよう!