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番外編 バレンタインデー 6
「お肉おいしー……やわらかい」
「よかった」
「めちゃくちゃ幸せ……」
幸せを隠し切れず、そのまんまそう言ったら、颯は楽しそうに笑う。
「オレは慧のその顔が見れれば、満足」
「……ありがと」
そんなセリフに、ちょっと感動。
おいしい料理と、お酒もちょっと飲んで、ふんわりと幸せ。
颯と居ると、いっつも幸せ。
颯が作ってくれていた「バレンタイン用」のごはんは、とってもオシャレでおいしかった。颯が、バレンタインだから、と考えて、オレの為に作ってくれたっていうのが、嬉しかったし。
食事を片付けてからチョコ食べよう、ということで、せっせと一緒に片付けをしながら、ふと思いついて聞いてみた。
「もしオレが普通に帰ってきてたら、料理、どうしてた?」
「一緒に作ろうかとも思ってたけどね。でもむしろ良かったよ、サプライズみたいに出来たから」
「一緒に作るのも楽しそうだけど……ありがとね、颯。めっちゃくちゃ嬉しかった」
最後、洗い終えて手を拭きながら、颯にそう言うと。
隣にいた颯の顔がちょっと傾いて―――ちゅ、とキスされた。
「――――……」
なんか本当に、映画の中の、キスシーン、みたいに、キスするなぁ……。
こんなにカッコよくキスできる人、居る……??
めっちゃドキドキするし。キュンが止まらないんですけど。
なんかもったいなくて目を閉じずに、目の前の、カッコよすぎる顔を見つめていると、気付かれたみたいで、颯の瞳が開いた。視線が合うと、その瞳が綺麗すぎて、ドキ、とまた新たに心臓が跳ねる。
ずっとドキドキしてるのに、と不思議な気持ちになったまま、じっと見つめ合ってると、ふ、と緩んだ瞳に、ますます、ドキドキ。
ぐい、と引き寄せられて、より近づいて、深くキスされる。
舌が触れて――――……ぞく、と背筋が震える。
お酒を飲んでたせいか、颯の舌、少し熱い。
颯とするキス、ほんとに、好き。
舌が熱いと、余計に、溶けそうって感じるかも……。
颯の指が、頬に触れて、そのまま首筋に触れる。くすぐったい、ような。気持ちいい、ような……。
「……ン……」
自然と、声が漏れたところで、颯がそっと唇を離した。
オレの頬に、ちゅ、と小さな音をたててキスする。なんだか頬がくすぐったい。こんなやわらかいキスがただただ嬉しくて、ほっこりして、すぐ胸の中、キュンの嵐。
もうほんとこの病はいつ治るのかな……って、治らなくていいのかな、死ぬまで。
ずっと颯を好きで居たいし。
……もうちょっと、キス、しててほしかったけど。
ちょっぴり残念に思いながらも、これ以上されてたら、無理かもしれない……と思ったところで、颯がオレの頭に手を置いた。
「――オレ、コーヒー淹れるから」
「あ、うん。チョコ、出すね」
優しい声の颯に頷いて、オレはチョコの紙袋を手に取った。隣に並べて置いた、貰ったチョコたちが目に入る。冷蔵庫入れた方がいいかなあと思いながら、あ、と気づいた。
買ってきたチョコとケーキの箱を開けて、保冷剤を取り出してから、莉子ちゃんから貰った箱も取り出して、隣に置いた。コーヒーの用意をしてる颯に「これね、莉子ちゃんからだって」と言うと、一瞬不思議そうな顔をする。
「莉子ちゃん? ……あぁ、匠の妹か」
「そうそう。オレと颯に、だってさ」
「オレにも?」
「うん。そう言ってたよ?」
颯がクスクス笑う。
「オレにプロポーズしてたけど、颯がカッコいいからって許してくれたんだもんね」
あの時のことを思い出してクスクス笑いながら、そのリボンを開くと、可愛いハート模様のトリュフチョコが並んでいた。
「颯、いっこ、食べる?」
「ん」
あ、と口を開けた颯に、そんなことでドキッとしながら、一つ手に取って、颯の口に入れる。
――颯って、オレにたまに食べさせてくれるけど……食べさせるって結構、ドキドキするかも、なんて思いながら見上げると。「ん、おいしい」と微笑む颯に、オレも一つ自分の口に入れた。
「――おいしいね。莉子ちゃんが選んでくれたのかなあ。可愛いもんね、ハート」
「そうかもな――――そういえば、匠は?」
「ん? 匠?」
「もらった? チョコ」
「ん。あ、一粒貰った」
「ひとつぶ?」
首を傾げた颯に、ふ、と笑ってしまう。
「そう。一粒……歩いてたら呼び止められて、鞄から出した一粒を食べさせてもらった感じ。オレンジの香りのチョコだったよ」
「へえ……おいしかった?」
頬に触れられて、その親指が、唇に触れる。
なんだかドキッとしながら、うん、と頷くと、オレの唇を颯の指がなぞる。一瞬で、ぞく、と震える。
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