220 / 228

番外編 バレンタインデー 6

「お肉おいしー……やわらかい」 「よかった」 「めちゃくちゃ幸せ……」  幸せを隠し切れず、そのまんまそう言ったら、颯は楽しそうに笑う。 「オレは慧のその顔が見れれば、満足」 「……ありがと」  そんなセリフに、ちょっと感動。  おいしい料理と、お酒もちょっと飲んで、ふんわりと幸せ。  颯と居ると、いっつも幸せ。  颯が作ってくれていた「バレンタイン用」のごはんは、とってもオシャレでおいしかった。颯が、バレンタインだから、と考えて、オレの為に作ってくれたっていうのが、嬉しかったし。  食事を片付けてからチョコ食べよう、ということで、せっせと一緒に片付けをしながら、ふと思いついて聞いてみた。 「もしオレが普通に帰ってきてたら、料理、どうしてた?」 「一緒に作ろうかとも思ってたけどね。でもむしろ良かったよ、サプライズみたいに出来たから」 「一緒に作るのも楽しそうだけど……ありがとね、颯。めっちゃくちゃ嬉しかった」  最後、洗い終えて手を拭きながら、颯にそう言うと。  隣にいた颯の顔がちょっと傾いて―――ちゅ、とキスされた。 「――――……」  なんか本当に、映画の中の、キスシーン、みたいに、キスするなぁ……。  こんなにカッコよくキスできる人、居る……??  めっちゃドキドキするし。キュンが止まらないんですけど。  なんかもったいなくて目を閉じずに、目の前の、カッコよすぎる顔を見つめていると、気付かれたみたいで、颯の瞳が開いた。視線が合うと、その瞳が綺麗すぎて、ドキ、とまた新たに心臓が跳ねる。  ずっとドキドキしてるのに、と不思議な気持ちになったまま、じっと見つめ合ってると、ふ、と緩んだ瞳に、ますます、ドキドキ。  ぐい、と引き寄せられて、より近づいて、深くキスされる。  舌が触れて――――……ぞく、と背筋が震える。  お酒を飲んでたせいか、颯の舌、少し熱い。  颯とするキス、ほんとに、好き。  舌が熱いと、余計に、溶けそうって感じるかも……。  颯の指が、頬に触れて、そのまま首筋に触れる。くすぐったい、ような。気持ちいい、ような……。 「……ン……」  自然と、声が漏れたところで、颯がそっと唇を離した。  オレの頬に、ちゅ、と小さな音をたててキスする。なんだか頬がくすぐったい。こんなやわらかいキスがただただ嬉しくて、ほっこりして、すぐ胸の中、キュンの嵐。  もうほんとこの病はいつ治るのかな……って、治らなくていいのかな、死ぬまで。  ずっと颯を好きで居たいし。  ……もうちょっと、キス、しててほしかったけど。  ちょっぴり残念に思いながらも、これ以上されてたら、無理かもしれない……と思ったところで、颯がオレの頭に手を置いた。 「――オレ、コーヒー淹れるから」 「あ、うん。チョコ、出すね」  優しい声の颯に頷いて、オレはチョコの紙袋を手に取った。隣に並べて置いた、貰ったチョコたちが目に入る。冷蔵庫入れた方がいいかなあと思いながら、あ、と気づいた。  買ってきたチョコとケーキの箱を開けて、保冷剤を取り出してから、莉子ちゃんから貰った箱も取り出して、隣に置いた。コーヒーの用意をしてる颯に「これね、莉子ちゃんからだって」と言うと、一瞬不思議そうな顔をする。 「莉子ちゃん? ……あぁ、匠の妹か」 「そうそう。オレと颯に、だってさ」 「オレにも?」 「うん。そう言ってたよ?」  颯がクスクス笑う。 「オレにプロポーズしてたけど、颯がカッコいいからって許してくれたんだもんね」  あの時のことを思い出してクスクス笑いながら、そのリボンを開くと、可愛いハート模様のトリュフチョコが並んでいた。 「颯、いっこ、食べる?」 「ん」  あ、と口を開けた颯に、そんなことでドキッとしながら、一つ手に取って、颯の口に入れる。  ――颯って、オレにたまに食べさせてくれるけど……食べさせるって結構、ドキドキするかも、なんて思いながら見上げると。「ん、おいしい」と微笑む颯に、オレも一つ自分の口に入れた。 「――おいしいね。莉子ちゃんが選んでくれたのかなあ。可愛いもんね、ハート」 「そうかもな――――そういえば、匠は?」 「ん? 匠?」 「もらった? チョコ」 「ん。あ、一粒貰った」 「ひとつぶ?」  首を傾げた颯に、ふ、と笑ってしまう。 「そう。一粒……歩いてたら呼び止められて、鞄から出した一粒を食べさせてもらった感じ。オレンジの香りのチョコだったよ」 「へえ……おいしかった?」  頬に触れられて、その親指が、唇に触れる。  なんだかドキッとしながら、うん、と頷くと、オレの唇を颯の指がなぞる。一瞬で、ぞく、と震える。

ともだちにシェアしよう!