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番外編 バレンタインデー 10

 ゆっくりと唇を離して、颯のことをじっと見つめる。 「……あのさ、颯。さっきから気になってること、話してもいい?」 「いいよ。なに?」    くすっと笑って、颯がオレをじっと見つめ返してくれる。 「……さっきも、今もさ――颯に食べさせるのも、食べさせてもらうのも、オレ、なんかすっごく照れるみたいで」 「へえ? そうなんだ」  颯が口元を押さえて、ちょっと笑いを押し殺してるように見える。 「てか、照れるでしょ。颯は平気なの? つか、何で笑うの?」 「平気、てのとは違うかな。食べさせてる時の慧、可愛いし――照れるのかと思ったら、またそれも可愛いなぁと」  颯はそう言って微笑むと、すり、とオレの頬に指を滑らせる。  可愛いって、そんな言わないでよ。それもまた照れるから! と思いつつ、とりあえず話は終えてしまおうと、颯を見つめる。 「とにかくそれでさ――さっき話したんだけど、匠に一粒食べさせてもらったってやつなんだけど……」  颯が、ふ、とオレをじっと見つめ返す。 「匠にとってなんの意味もないって分かってても、やっぱりあれは、やめた方がよかったかなって思って」 「――」 「だから……今日、何も考えないで、食べさせてもらっちゃって、ごめんね?」 「――ん、あぁ……うん」  颯は少し眉を寄せて、なんだか困った顔でオレを見て、それから、小さく頷いた。 「オレ、これからは気を付ける――あ、もちろん、颯がそんなの気にしてないのは分かってるんだけど。これは、なんかオレの問題というか」 「ん……」 「それに……颯が誰かに食べさせてもらうのとかも、想像したら嫌だし」  颯はまた少し複雑そうな顔をして、オレを見つめながら、すりすりと頬を撫でてくる。 「―― に、何の意味もって……」 「え?」  すごく小さな声でつぶやくように言った颯。  今、何て? と颯を見上げたオレに、颯は少し黙ってオレを見つめてから、小さく首を振った。   「――いや。なんでもない。それで?」  先を促されて、ん、と頷いてから言葉を続ける。 「だから、なんとなく、食べさせるのって特別な気がするから、颯だけにするから。今日は、なんか、ごめんね?」 「――ん。分かった。オレも、そうする」  ふに、と頬をつまんで、颯がオレを、じっと見つめる。 「……颯?」 「ん」 「……なに?」 「んー……」  ちょっと困った顔で見つめてきてた颯に、ぎゅ、と抱き締められる。 「颯?」 「慧はさ――結構、モテてたよな?」 「ん? ああ、昔?」 「オレと結婚するまで」  何だろ、その質問?   首を傾げながら、オレは少し颯の腕の中から顔を上げる。 「まあ……好きって言われることは、結構あったけど」 「だよな。モテてる実感も、あったよな?」 「んー、まぁ……なに? なんの質問?」 「――今も、モテてると思う?」  なんの質問なんだろうとますます思いながら、眉を寄せてしまうけど。 「思わないよ」  そう答えると、颯は、何だか考え深げに少し黙った。 「だって、オレが颯と運命の番だって皆も知ってるし。オレを好きになる奴なんて、居ないでしょ。それに特にオレ、Ωだからさ、颯以外のフェロモンは受け付けなくなってるって聞いたし。恋愛対象として見られないと思う」 「ああ……そういう感じか」  なるほど。  そう言って、颯は、ふー、と息をついた。 「何々、何の質問なの?」 「――いや。まあそうだよな……運命の番で結婚してる相手に、好きとかは……言えないよな」 「んん? なに、どういう意味?」 「――――慧」  なんだかすごく真剣な顔をして、颯がオレを見つめてくる。 「確かに、番だってことは知ってるだろうけど……慧のことを好きになる奴はいると思う」 「――う、ん……?」 「どうにかなりたいってだけじゃなくてさ。ただ好きになる奴も」 「――」 「そこはそう思っておいた方がいいと思うよ」 「――――ん。分かった」  頷いて、少し考える。 「……颯は、いいの? オレのこと、好きな奴が居て」  思うまま聞いたら、颯はちょっと固まってオレを見つめた。

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