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番外編 バレンタインデー 11

 颯は、少し考える感じで黙って、それから、ふ、と穏やかに微笑んだ。 「慧を好きな奴がいること自体は、オレが良いとか悪いとか言うことじゃないかな」 「……まあ確かに。そっか」 「慧が好かれるのは、分かるし」  そんな言葉に、単純にも、すごく嬉しいなと思ってしまうけど。  でもなぁ、と考える。 「でもオレは、颯を好きな人が居たら、ちょっと……嫌かも」 「――」 「……颯は心、広いよね」  そう言った直後、引き寄せられて、至近距離で颯を見つめる。 「心広く居られるのは――誰かが慧を好きだって段階までだから」 「……ん?」 「慧が、少しでもなびきそうになってきたら、無理」  オレは颯を見つめながら、その言葉の意味を考えていたのだけれど。  ……それはもしかして、ヤキモチというやつだろうか。  そう思ったら、一瞬でめちゃくちゃ嬉しくなってしまった。 「颯も、妬いたり、する?」 「しないと思ってる?」 「ん。なんか……冷静に受け止めて、大したことないなって言いそう」 「性格的に、そういうとこがあるのは確かだけど……」  そこまで言って、少し黙った颯。  颯の話の続きを待っていると、颯は、手を伸ばして、チョコを一粒、手に取った。 「これ、くわえて」 「え。……ん?」  言われるがまま、唇で挟んで、そのまま、颯を見つめる。 「慧が恥ずかしいって言ってたけど…… 確かにさ――口に、何かをツッコむとかは」 「――――」 「……ちょっとエロいし」 「……っ」  くわえさせられてるチョコと、唇に、颯の指が触れて、なぞる。  ぞく、としたものが背筋に走って、思わず背が伸びる。   「やっぱり、少しは、嫌かも」  ずきずき。胸が急に痛い。  ごめんって言いたいけど、チョコ入ってるし、颯が唇に触れてるし……!  胸、痛いけど、  ドキドキもしてしまってて、なんだかもう、また一気に、混乱状態だ。 「このまま、オレに食べさせてくれたら、許してあげようかな」  ゆっくり言い聞かせるように、優しいけど、少し熱を帯びた、話し方と視線。腰にまわった手に、引き寄せられる。 「食べさせてよ、慧」  …………っえええ。このまま??  手ですらハズイのに……!!  しかもなんかこの、颯の、このやらしい感じの、ドキドキしちゃう感じの時に……!!  ばっくんばっくん心臓が言ってる。  どんどん赤くなってると、思う。 「早く」  颯はにっこり笑顔で、またオレのチョコと唇に触れながら。  ぺろ、と舌を見せた。  優しい圧のある言葉。  ぞく、とお腹の奥の方が、震える。  何か色っぽくて。更にカッコよくて。  その視線に映るのすら、ちょっと恥ずかしいと思ってしまうのに。  恥ずかしすぎて死ぬかもしれない。 「慧」  澄んだ声で、颯がオレの名前を口にする。  びく、と震えてしまう。体の奥の方が、きゅんと疼く。  息が勝手に熱くなるとか。意味わかんないよう……。  震えてしまいそうな手で、颯の胸の辺りに触れて、そのまま颯の唇に近づく。少し微笑んで見える、形の良い唇に、さらにチョコを近づけて、触れさせる。  ――中に入れるの、どうやって……。  恥ずくて、死んじゃいそう……。  思った瞬間。顎を掴まれて、少し上向かされると、覆いかぶさられるみたいに、キスされた。 「んぅ」  チョコ、奪われて。唇の間で、溶かされて。  チョコの匂いが、めちゃくちゃ甘くて。  ふ、と零れる息が熱すぎて、くらくらする。 「……ん、ン……っ」  チョコのかたまりが無くなると、強引に舌を絡めとられる。  頭の奥のほうが、痺れてきて。  かくん、と後ろに落ちそうになったのを、颯の手に支えられて、またすぐに、キスされる。 「……ん、っ……」  颯の息も、熱い。  さっきから何度も何度も、キスしては離れていたもどかしさもあって、もう、体のゾクゾクした快感が、全然抑えられなくなっていく。もう限界。  もう離れないで、このまま、がいい。 「……は、やて…………ベッド……」  は、と息を吐きながら、唇の間で言った。聞こえないかなと思ったけど、颯の喉が、ごくっと鳴ったのが分かった。すぐに抱き上げられて、オレは、ぎゅう、としがみついた。 (2025/6/13)

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