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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(12)

 腰に剣はない。  だが拳がある。  全身のバネを使って拘束を振り払うと、勢いそのままに半身を回転させる。  握り固めたそれを振りかざした。  背後に控えていたディオールの顔面に叩きつけようとした瞬間。 「すまない、アル……」  か細い声。  苦痛に満ちたかつての忠臣の顔を見たアルフォンスの腕から力が抜ける。  同時に、背後から抱きすくめられた。  天幕の奥にある寝台が視界に飛び込んできて、アルフォンスの喉がヒュッと音を立てる。  この期におよんで頼みとするディオールは、カイン王の髭面の部下と共に天幕から出て行ってしまっていた。  押し倒され、とっさに身をよじって寝台から転がり出ようとするアルフォンスの身体に、黒衣の王が覆いかぶさる。  元軍人の力で抑え込まれ、衣服を剥がれた。 「やめろ! 俺は女じゃない」 「分かってますよ、そんなことは」  弾け飛んだ留め具が、主人の抵抗を示すようにカインの頬を打つ。  黒曜石の眼が切なげに細められた。

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