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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(1)

 軍人とは、砂にまみれて行軍するものだ。  戦場で功をたてた夜でさえ、下着にまで入りこんだ砂に不快感を抱きつつ眠りにつくもの。  このような熱い湯でいちいち身体を洗い流すなど──身じろぎするたびにチャプチャプと小気味良い音をたてる湯の中で、アルフォンスは首を振った。  グロムアス国王の遠征用天幕には豪奢な寝台が設えてあった。  衝立の向こうには、小さめだがバスタブが用意されている。  王族とはいえ、戦場に慣れた軍人であるアルフォンスの常識からは考えられない話だが、バスタブは熱い湯で満たされているではないか。  すぐ横には裏切者のディオールほどの大きさのタンクが設置されていて、蛇口をひねれば好きなだけ湯が出るようになっていた。  いつでも使えるようにと湯を沸かさせて溜めているのだろう。  バスタブの縁にはシャボンの入った洒落た容器が置いてある。  使った形跡がないことから、あるいはアルフォンスのために急ぎ用意させたものかもしれない。  高価な香料の匂いには、昂った気持ちを落ち着ける効果でもあるのだろうか。  素裸で湯の中に沈み、アルフォンスは天を見上げた。  凌辱の現場をずっと見ていた月は、今は恥じらったようにその姿を隠してしまっている。  そろそろ夜が明けるのだ。

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