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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(2)
何度目かのため息を吐いて、アルフォンスは湯の表面を叩いた。
波紋が消えるにつれ、簒奪王の鋭い視線が記憶の中に蘇る。
──あいつ、戦場でいつもこんな風呂に入ってるのか?
──似合わない。いや、むしろ。
「気色悪いな」
身体の奥を犯された屈辱を溶かすように、湯の中に悪口を吐き捨てる。
──お湯に浸かって、疲れたらベッドで寝んでいてください。
そう告げてあの男は天幕を出て行った。
アルフォンスの額にやさしくも強引に唇を寄せて。
あんなことがあって呑まれるように風呂に入ったが、よく考えたら奴の言うことを聞いてやる義理などないではないか。
アルフォンスは両手で黄金の髪をかきあげた。
「フン。停戦交渉に出向いた先で男に犯されたなど……姉上には絶対に言えないな」
感触は抜けない。
あの熱い手が、今も肌の上を這いまわっているようだ。
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