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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(14)
「大国の……しかも打算的な国王陛下が、牛の肉すら満足に食せないこのような辺境に何故目をつけたのか分かりかねるな」
アルフォンスは奥歯をギリリと噛みしめる。
皮肉のつもりが、これは自虐になってしまったではないか。
「信じてくれないなら何度でも言いますよ。レティシアの黄金──あなたがいるからです」
しれっとした調子で言われ、アルフォンスの表情が凍りつく。
同時に右手が翻った。
放たれる銀の軌跡。
簒奪王が息を呑む。
その黒髪が数本、空に舞った。
壁を穿つ轟音が続く。
衝立に深く刺さっていたのは、肘から手首ほどの長さの短刀であった。
柄にグロムアス騎兵部隊の騎章が彫られているのを認めて、ロイ将軍が「あっ」と声をあげる。
自身の腰を探って、それから泣き出しそうに顔を歪めた。
髭の間から僅かに覗く肌は蒼白である。
「オ、オレの短刀が……」
アルフォンスが黄金の花のペンダントを放り捨てたとき、ロイは彼に駆け寄って羽交い締めにしようとした。
その僅かな隙に将軍の腰から短刀を引き抜いたのだろう。
「外したか。残念だ」
アルフォンスは挑発的にカインを睨む。
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