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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(15)
「仮にも国王だ。お前を殺しては面倒なことになるのは分かっている。脅すだけのつもりだったんだが、つい手が滑ってな」
薄皮一枚を裂かれ、カインの頬にゆっくりと赤い線がにじみ出てきた。
「……なるほど。食事をぶちまけたのは、剣を奪ったことを悟られないようにするためでしたか」
外したと言っていたが、おそらく狙い通りだったのだろう。
「そうだった、あなたはレティシアの黄金……いや、違う」
「『剣』を忘れるな」
素早い動きで短刀を衝立から抜くアルフォンス。
手首を返すと同時に流星のような輝きで刃物が虚空を薙ぐ。
そう。古王国レティシアの若き王弟は《レティシアの黄金の剣》との異名で国内外に知られていたのだ。
名の由来は彼の美しい黄金の髪、高潔な佇まい。
そして国を守る『剣』としての活躍だ。
剣士としての技量はもちろん、軍を率いる指揮官としての卓越した才への畏怖の念も込められていよう。
「夕べは突然のことで呆けてしまったが、俺に剣を持たせたうえはこれ以上の無体は許さん」
よく通る声は戦場で指揮をとるに相応しいものだ。
「すぐに退却の準備をしろ。レティシアの国境を出るまで、一日一人ずつお前の家臣を血祭りにあげてやる」
まずはそこのお前だと、アルフォンスの剣が髭面を指した。
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