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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(17)

「何がおかしい!」  今度はアルフォンスに睨まれる。 「いえ、あなたに剣を向けられるなど我が臣が羨ましいと思って」 「はぁ?」  二か所から同時に起こった叫び。 「というのは冗談として」  ついつい漏れてしまった本音だったのだろう。  カインが白々しく咳払いする。 「我々は敵同士なのは事実ですが、あなたは大切な客人です。できれば剣は下げていただけたら……」 「大切な客人だと。そんな相手によくも……」  ──よくもあんなことを……。  身体を這い回る熱い手を思い出したか、屈辱にアルフォンスの語尾が小さくなっていった。  ブルリと首を振ったのは、自分がわざわざ敵陣に出向いた理由を思い出したのだろう。  震える手を握りしめ、アルフォンスはヒラリと手首を返す。  カインの黒髪を数本、宙に散らしてから再び短刀が衝立に刺さった。 「一人ずつ殺すというのは戯れだ。どこかの新興国家の人間じゃあるまいし、そんな野蛮なことを俺がするとでも?」  精一杯の矜持で簒奪王を睨みつけ、アルフォンスは机に右手をついた。  ゆっくりと腰かけようとしたところ、クラリと目の前の景色が回る。  足がもつれた。  重心を失いかけたところ、腰に手が回される。 「触るな……っ」

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