40 / 180
【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(17)
「何がおかしい!」
今度はアルフォンスに睨まれる。
「いえ、あなたに剣を向けられるなど我が臣が羨ましいと思って」
「はぁ?」
二か所から同時に起こった叫び。
「というのは冗談として」
ついつい漏れてしまった本音だったのだろう。
カインが白々しく咳払いする。
「我々は敵同士なのは事実ですが、あなたは大切な客人です。できれば剣は下げていただけたら……」
「大切な客人だと。そんな相手によくも……」
──よくもあんなことを……。
身体を這い回る熱い手を思い出したか、屈辱にアルフォンスの語尾が小さくなっていった。
ブルリと首を振ったのは、自分がわざわざ敵陣に出向いた理由を思い出したのだろう。
震える手を握りしめ、アルフォンスはヒラリと手首を返す。
カインの黒髪を数本、宙に散らしてから再び短刀が衝立に刺さった。
「一人ずつ殺すというのは戯れだ。どこかの新興国家の人間じゃあるまいし、そんな野蛮なことを俺がするとでも?」
精一杯の矜持で簒奪王を睨みつけ、アルフォンスは机に右手をついた。
ゆっくりと腰かけようとしたところ、クラリと目の前の景色が回る。
足がもつれた。
重心を失いかけたところ、腰に手が回される。
「触るな……っ」
ともだちにシェアしよう!