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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(18)
言葉とは裏腹に、アルフォンスの身体はカイン王の腕の中に引き寄せられた。
何をされるかと表情を強張らせる黄金の剣の前で、しかし簒奪王は目元を歪めるだけ。
悔恨か愛しさか──複雑な想いが入り混じった黒曜石の光から、彼の感情を推し量ることは難しかった。
そのときだ。
「アル……!」
天幕の布を叩くような勢いで駆けこんできたのは大柄な体躯の男であった。
ディオールである。
彼にとって兄──であるらしい──の腕に崩れかかるかつての主の顔を覗き込む。
天幕の外で様子を伺っていたのだろう。
己の行動を鑑みればアルフォンスの前に姿を見せられないけれども、弟分を心配する思いは変わらないといったところか。
「何をしにきた。お前は絶対に許さんと言って……」
カインの腕から身を起こすアルフォンス。
だが身体に力が入らない。
額は白く、うっすらと汗が滲んでいる。
「夕べから何も……水すら口にしていないだろう。アル」
テーブルの上に残る水差しをわしづかむと、薄桃色の唇にあてがう。
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