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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(19)
「裏切者が……したり顔で何を言うか」
反射的に跳ね上がったアルフォンスの右手が水差しを叩き落とした。
「すまない……」
もはや口癖のようにその言葉を呟いて、ディオールは広い肩をしゅんと縮めた。
どうすればよいか分からないと弱り切った表情。
それは、一緒に育った子ども時代と変わらないものだったのだろう。
アルフォンスの翡翠色の双眸が揺らいだ。
「ディオ……」
腰に回された手に、不意に力が込められる。
カインが卓からグラスを取り、くいと杯を傾けたのだ。
腕の中のアルフォンスの顎に手を添えると、かつての忠臣の名を呼ぶ唇をやさしく覆った。
「ん、んんっ……」
カインの唇の隙間からゆっくりと漏れる液体。
唾液と混ざった水が口中に染み渡る。
コクリと喉を鳴らすと、知らずアルフォンスは王の唇を求めた。
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