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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(9)
※ ※ ※
グロムアスへの行程は、アルフォンスに快楽を植え付ける旅となった。
熱い指先に触れられ手を振り払うところから、旅は始まる。
馬車に乗る前だ。
深窓の姫君をエスコートするかのようなカインの物腰に、アルフォンスが腹を立てたのだ。
だが、思い直す。
威嚇は呑みこめ。
少なくともグロムアス軍が国境を超えるまで、囚われの花嫁のように大人しく股を開いていればいいんだ──それで国も姉も救われるというなら。
黒曜石の眼を睨みつけるとアルフォンスは己の手で馬車の手すりをつかみ、足置きを蹴ってヒラリと飛び乗った。
造りつけの座面の中央に遠慮なく腰をおろす。
二頭立ての黒塗りの馬車の中は思っていた以上に狭く、圧迫感を覚えるものだった。
二人が乗ればいっぱいだろう。
カイン王は愛馬を持たず、戦場にも馬車で乗り付けるという。
軍事国家の長とは思えんな──これはアルフォンスの素直な感想である。
「失礼しますね、アルフォンス殿下」
あとから乗り込んできたカインが、王弟の隣りに腰をかけた。
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