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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(10)

 端によけてやることをしなかったため、少し窮屈そうだ。  だが、構うものか。  密着する左側から熱が伝わってくるが、それでも身じろぎひとつしないのは囚われの身としてせめてもの意地である。  まるでそこに誰もいないかのようにアルフォンスは窓に目を凝らした。  小さく四角く切り取られた馬車の窓。  驟雨の中、行軍を開始するグロムアス兵らの向こうに綱を解かれ駆けていく愛馬の姿が過ぎった。  賢い馬だ。  主人がいなくともレティシアの王都へと戻るだろう。  主を乗せず一頭で戻った馬と退却していくグロムアス軍に、首脳陣は王弟の身に起こった異変を察知してくれるはずだ。  もちろん、何が起こったか詳細を知られるわけにはいかないが。 「揺れますよ、殿下」  低く深い声とともに、左から体重がかかった。  襲われると反射的に身体を強張らせたアルフォンスだが、馬車が出発しただけだと気付きほっと息をつく。  ここらは岩場だ。  尻にガタガタと振動が走るのは致し方ないことだ。  いや、それにしても。

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