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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(11)
「何だ、この椅子は。クッションもないのか」
吐き捨てたのは、尻の衝撃が予想以上にひどかったからだ。
すみません、とカイン。
神妙な面持ちに驚いたのも束の間、こちらを見下ろす真顔から真意は見えない。
「なんなら僕の膝に乗りますか?」
「はぁ?」
本気か冗談か計りかねアルフォンスは結局、無視することに決めた。
窓の外で動く景色。
愛馬の姿はもうどこにも見えない。
故郷はゆっくりと遠ざかっていく。
姉王はきっと自分を心配してくれるだろう。
同時に賢明な判断を下すに違いない。
つまり、都合良く退却していく敵軍を追わず静観。
国境付近の防備を固める。
いずれ外交ルートで問い合わせは入ろうが、捕虜として捕らえられたであろう弟の救出のために危険を冒すようなことはするまい。
それは姉が冷たいからでなく、民を想う良き王であるからだ。
不意に頬に熱いものが触れた。
「やめっ……!」
またあの手に身体をいいようにされる。
そう思って身をよじったアルフォンスは、ぴたりと寄り添って座るカインが驚いた表情でこちらを見やる様に一瞬呆けた。
見開かれる黒曜石の眼の奥で何かがキラキラと光っている。
目を凝らすとカインの眼に映る自分の貌が見える。
真珠が零れるような雫、それが己の頬を伝う涙だと気付きアルフォンスは小さく声をあげた。
体の左側が熱く燃える。
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