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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(13)

 何度も髪を撫でる手のひら。  その熱に、じんと身体が燃えていく。  耳元の囁きが、急に甘いものに感じられた。 「何も考えずに、僕の腕の中にいて」  無抵抗のアルフォンスの腕をとり、カインはゆっくりと袖をまくった。  腕を()むように、薄い筋肉を舌がなぞる。 「あっ……」  アルフォンスがビクンと大きく背を震わせたのは、恐怖のためばかりではあるまい。  たちまち潤む双眸。  くちづけを受け入れると、衣擦れの音とともにゆっくりと一枚一枚衣服を剥がれていく。 「ちがうんだ……俺は、こんなこと……」  うわごとのように繰り返すのは、精一杯の矜持の言葉。 「こんなことで姉上が守れるならと……、だから俺は……」 「黙って。アルフォンス」  耳朶を噛まれ、首筋を音たてて吸われた。  漏れる吐息を噛み殺す。 「お前が気まぐれを起こして……レティシアにとって返さないように……。だから……」  下着を剥がれても抵抗できないのは、脅されているからに違いない。 「あなたの自己犠牲は涙ぐましい」  でも、黙って──と、熱い手が胸に触れた。

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