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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(15)
「愛……?」
「ええ」
先走りを馴染ませるよう、それはゆっくりゆっくりとアルフォンスの身体の奥へと侵入してきた。
腹の内側を走る感覚に、思わず黒衣の胸元にしがみつく。
馬車は岩場を抜けたようだった。
石畳で整備されていない地面は、この雨で足場が悪い。
荷駄や人の往来で穿たれた泥がそのままの状態で固まっている。
馬車の車輪がとられ、カタカタと揺れるたびに身体の奥を走る振動にアルフォンスは涙声を漏らした。
敏感に腫れあがった乳首にカインの黒衣の布地が擦れる。
「うそだっ……」
呻き声が深くなり、やがて吐息に変じる。
微かな喘ぎ声が混ざるのに、時間はかからなかった。
「何が嘘ですか?」
腕の中の囚われ人を愛おしそうに抱きしめる。
互いの息遣いとカインの囁き声が、狭い車内で反響して幾重にも聞こえた。
必死に首を振りながら、アルフォンスはこの期に及んで憎まれ口を叩いた。
「あいしてるなんて絶対にうそだ。んっ……ほんとうに好きなら、こんなことしない」
「好きですよ。僕が好きだと言うと、繋がっている奥がキュッと締まって応えてくれますよ」
「ちが……」
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