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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(15)

 痛くしろ──アルフォンスは囁いた。 「せめて痛くしろ……。俺がお前を嫌いなままでいられるように」 「駄目です。本当はもっともっと優しくしたたいのに……」  瞼を頬を、首筋に薄く透ける血管の上を。  まさぐるように舌が這う。 「だって……俺は姉上のためにこんなところにまで。だって……ああ……っ」  たまらず漏れたのは、もはや紛れもない嬌声であった。  腹の奥がキュンと震え、背骨がとろける感覚。 「忘れてください。国も立場も、今は忘れて僕のことだけを……」 「……忘れていいのか」 「ええ、全部僕のせいにして忘れてしまえ」  アルフォンスの唇がカインの頬に寄せられる。  言葉とは裏腹に、まるでくちづけを強請るように双眸は伏せられた。

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