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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(16)
熱い息遣いが鼻にかかり、湿った粘膜がアルフォンスの唇を強引に拓かせる。
挿し入れられる舌に口中を犯されながら、アルフォンスは黒衣の肩に腕を絡めた。
ああ、肌と肌が合わされば伝わる熱がきっと思考力を奪ってくれるに違いない。
無意識の動きだろう。
震える指先が、黒衣の裾を強く引っ張る。
こんな邪魔な布なんて剥いでしまえと言わんばかりに。
「アルフォンス殿下?」
だが、予想外に強い力がアルフォンスの手首を縛めた。
両手の指を絡めてきたのは、アルフォンスの自由を奪うためか。
訝しげに顔をあげる金髪の青年の耳元で囁かれる深い声。
「愛していますよ。本当だ。だからどうか呼んで。僕の名を」
「……誰が呼ぶか」
誤魔化されたような気がする。
強者のカインが、囚われの王弟のために肌を晒すいわれなどないと言いたいのだろうか。
よく考えればそれも道理だ。
翡翠色の双眸から雫があふれ、零れ落ちる。
それは震える感情ゆえか、突き抜ける快楽のためか。
アルフォンス自身にも分からなかった。
「愛している、アルフォンス。あの時からずっと……」
「うぅっ……そんなこと言うな……っ」
そんな言葉を信じてはならない。
けれども、ああ──アルフォンスは目を閉じる。
頼むから痛くしてほしい。
肌を這い回るカインの手は優しく、頬を嬲る舌先は震えている。
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