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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(1)
「王はどうかしている」
そう呟いたのは、ひょろりとした体躯の一人の将であった。
剣ダコのできた右手を顎にもっていき、そこに慣れた髭がないことにあらためて驚いている様子だ。
グロムアス将軍ロイである。
数週間ぶりに帰ってきた都で一旦軍の解散を命じたのち、はて何をしたものかと手持無沙汰に王宮をぶらついていたのだ。
「簒奪王」と綽名されている彼の主君は元は軍人で、彼の上官でもあった。
そのころから何を考えているのか、いまひとつ掴めない男だったが切れ者なのは確かだ。
昨年のクーデター事件でもロイの知らないところで先王を殺し、たった一晩で王位を奪った手腕には舌を巻くよりほかない。
周辺諸国に対しても、時に恫喝で、時に交渉で国境線を画定していった様も然り。
だが、今回のレティシア遠征はどうにも様相が違っていた。
わざわざ攻める旨味のない小国に軍を繰り出すのは、何か別の目的があるように感じたのだ。
ロイの予感は的中することになる。
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