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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(9)
「それより連れて来といて今更だけど、あんまりあちこち見るなよ。この水路を使えば市壁の外から城へ攻め込むことだってできるんだから」
「……お前、本当に馬鹿だな」
「えっ、何だよ?」
この数日──いや、グロムアス軍の包囲を受けて以来初めてだ。声をあげて笑ったのは。
真珠色の歯を零すアルフォンスに、ロイは安堵した様子を見せる。
「貴様、いつまでここにいる? 二週間後に《血の祝祭》って祝日で祭があるんだ。数日間、街中大賑わいだ。それまでには国に帰れるといいんだが」
「祭?」
ああ……だから水路沿いの家の窓が、花や装飾で飾り付けされているのか。
「《血の祝祭》とは、随分物騒な名だな」
レティシアの山あいを吹く冷気を思い出してアルフォンスは身を震わせた。
「昔、婚姻に不服だった花嫁が初夜に自害したとかなんとか。慰霊のための祝祭とかなんとか。それ以来、この日は何かが起こるとかなんとか言われてて……でも街の人は関係なく楽しんでるぜ」
「とかなんとかが多いな」
己の立ち位置を鑑みるに、何ともゾッとする話ではある。
しかし連れの様子など気にした風もなくロイは続けた。
「去年は陛下がクーデターを起こされて先王を討ったし。実際、何かが起こりがちなのは確かなんだ……」
まぁ、先王の軍拡路線は問題だったし、そもそもオレは祭の迷信なんて信じてねぇからな──強がるロイの視線に僅かな躊躇いの感情が浮かぶのを、このときアルフォンスは純粋な怖れであると考えた。
「その祭までにレティシアに戻れれば良いが。俺だってどうなるか分からん。残念ながら現状、俺に決定権はないからな」
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