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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(10)
「それもそうだな……」
「客人」の置かれている立場に思い至ったのだろう。
表情を曇らせ、ロイは船の舳先を王宮へと転じる。
「だが、ここまで来たんだ。こうなったら正式な休戦条約を結んでやるさ」
「貴様、まだそんなことを……」
囚われ人の意外と逞しい言葉に、ロイはあからさまにホッとした様子だ。
「部下たちも怒ってるんだ。一国の王弟殿下に対してあんな不埒な振る舞いをするなんて……」
《レティシアの黄金の剣》が《簒奪王》に嬲りものにされたと、すでに軍の中に広まっているのだろう。
アルフォンスは奥歯を噛みしめた。
「クーデターを起こすような人とは思えなかった。陛下はトチ狂ってしまったんだ……」
それは王宮にいないからこそ口にできる王への陰口なのだろう。
現に船が街を離れ、元来た水路を遡って出発地点に近付くにつれ彼の口数は少なくなっていった。
自分で船を漕げるようになるよう、ここで練習するというアルフォンスを残してヒラリと陸にあがる。
「早く国に戻れたらいいな」
去りゆく将に、アルフォンスは「待て」と声をあげた。
フォークで脅された記憶が蘇ったか、恐る恐るこちらを振り向くロイ。
そんな彼の前に白い手が差し伸べられる。
「ありがとう。ここに来て初めて友情を感じた」
「お、おお」
頬を染めてロイも手を握り返した。
絡む視線に照れが混ざる。
どちらともなく零れる微笑。
ささやかに結ばれた友情は、しかしのちに手ひどく裏切られることとなる。
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