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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(12)

 身体を作り変えられた屈辱、怒りはあるはずだ。  なのに湧き上がってくるのは別の感情で、アルフォンスにただただ戸惑いを与えた。  もちろんこれは愛なんかじゃない。ならば一体何なのだ?  小舟に座り込んだまま、アルフォンスはひとり頭を抱えた。  風が強くなってきたせいか、船底が揺れる。  ここにつれてこられてから数日。  なのに当のカイン王は一向に姿を現さない。  馬車から降り、ふらつく身体を支えるまで彼はアルフォンスのすぐ傍らにいたというのに。  簒奪王なんて陰口を叩かれているわりに、意外とカインは慕われているのだろうか。  アルフォンスを支えて隣りに立っていた黒い姿は、すぐに王宮前に並ぶ迎えの人々の中に消えてしまった。  金髪を高く結いあげ、エメラルド色のドレスを着た令嬢と親し気に話している姿が一瞬覗いたきりだ。  どういうつもりだ、あの男は──と、今度は別の怒りが芽生える。 「いや待て、当然だ。あの男はこの国の王なんだ」  ひたすら快楽に溺れた馬車の日々に戻れないというのは、カインとて同じなのだろう。  別に愛を交わしたわけじゃない。  あれは凌辱だ。  強国の王の戯れか、あるいは敵国の王弟を考えうる限り一番残酷な方法で辱めてやろうという意図なのか──最悪の考えを、アルフォンスは首を振って脳裏から追い出した。

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