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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(13)
「ここにいたのか」
不意に降ってきた声。
船着場に立つ足が視界に入り、アルフォンスは弾かれたように顔をあげた。
カインか? 俺を捕らえに来た?
あの手が、また俺に触れるのか?
「ア、アル、何て顔をしてるんだ……」
しかしそこにいたのは薄茶の髪をした大柄な影。
アルフォンスのかつての忠臣であった。
翡翠の双眸をしどけなく潤ませ、金の睫毛を震わせた弟分の表情に戸惑いを隠せなかったようで、ディオールは視線を逸らせてしまった。
アルフォンスは右手で己の額を覆う。
「残念だ。フォークはロイにやってしまった」
「フォーク? 何のことだ?」
待てど返事がないため、ディオールは所在なさげに俯いてしまった。
「その……世話係がアルを探している声が聞こえたんだ。多分逃げる算段を立てているんじゃないかと思って」
だからといってこんな王宮裏の小さな水路を探し当てるとは、さすがというべきか。
兄弟同然の間柄である。
思考回路は筒抜けのようだった。
「ふん、俺を守るため、か?」
あからさまな皮肉に、ディオールは返す言葉を失う。
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