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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(14)

 不器用な男は絞り出すようにいつもの言葉を呟いた。 「……すまない、アル」 「その言葉は聞き飽きた。ディオール」  船に座りこみ、そっぽを向くアルフォンス。  いつものように巨きな身体を精一杯縮めているであろうディオールのことなど見てはやらない。  ささやかなれど、これは復讐だ。 「私はあんたに救われた。そのうえずっとあんたと一緒に育ってきた。でもその間、兄はひとり……孤独を抱えてきたのかと思うと何も言えなくなる」  辛そうな、まるで自分が被害者だといわんばかりの言葉に、アルフォンスのささやかな復讐心は一気に燃え上がった。 「お前の罪悪感のために、この俺を差し出したか、ディオ!」  足場の悪い小舟の上でバランスを崩しながらも、ディオールの胸倉をつかむ。  兄貴分の弱りきった表情がかすかに緩んだ。  厚い唇にのぼるのは微笑か? 「何がおかしい!」 「いや、あんたが私のことをディオって呼んでくれたから」 「……何がそんなに嬉しいんだ」  絶対に許してやらないという意味をこめて愛称を呼ばずにいたのに。  咄嗟のことにいつもの呼び方が出てしまったようだ。

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