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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(15)
フッと大きく息をつくと、胸倉から手を放す。
「別に何てことはないんだ。女じゃあるまいし。特段、貞操観念なんてない」
少しだけ痛い思いをしただけだ。
それから王に抱かれた男として多くの兵士に奇異と同情の目で見られるだけ。
それはこの上ない恥辱にちがいない。
だが、それすらも安いものだ。
この身体を差し出すことで姉と国を守れたと思えば。
「アル……その、私は……」
まだ言いづらそうに、ディオールは言葉を探しあぐねているふうである。
「何だ、言ってみろ。ディオ」
不器用な男に、いつもの癖で助け舟を出してしまう。
傍目にも分かるくらいディオールはホッとした様子だ。
しかし表情は硬いままである。
「私は馬車の護衛を命じられて、ずっと騎馬で並走していた」
「なに……」
「いや、窓は覗いていない。ただ、あんたの声が……」
「………………」
我を忘れて王を求めたあのひとときを、この男はずっと側で聞いていたというのか。
屈辱に耳朶が熱く燃える。
喉元までせりあがったように心臓の音が脳裏に響いた。
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